源氏物語「宵過ぐるほどに 3/4」(夕顔)   問題


(滝口ガ)紙燭持て参れり。(夕顔の侍女ノ)右近も動くべきさまにもあらねば、(源氏ハ)近き御几帳を引き寄せて、「なほ持て参れ」とのたまふ。例ならぬことにて、御前近くもえ参らぬつつましさに、長押にもえのぼらず。「なほ持て来や。所に従ひてこそ」とて、召し寄せて見たまへば、ただこの枕上に夢に見えつる容貌したる女、面影に見えてふと消え失せぬ。昔物語などにこそかかることは聞け、といとめづらかにむくつけけれど、まづ、この人いかになりぬるぞと思ほす心騒ぎに、身の上も知られたまはず添ひ臥して、「やや」とおどろかしたまへど、ただ冷えに冷え入りて、息はとく絶えはてにけり。言はむ方なし。
↓ 現代語訳
 (管理人の子滝口は)紙燭(しそく)をともして参上した。(本来なら右近が取り次ぐべきであるが、)右近も動くことができそうもないから、(源氏は)近くにある御几帳(みきちょう)を引き寄せて(夕顔を隠し)、「もっと奥へ持って来い。」とおっしゃる。(管理人の子はこんなにおそば近く参ることは)前例のないことなので、(源氏は)「もっと奥まで(あかりを)持ってきなさい。遠慮も場所によってするものだぞ。」と(おっしゃっ)て、(紙燭をおそば近く)お取り寄せになって、(夕顔を)ご覧になると、すぐ(そばにあるこの女の)枕元に、(さきほど)夢に見えた顔立ちの女が、幻影となった見えたかと思うと、すうっと消えてしまった。昔物語などでならこういうことを聞いたことがあるが(現実にあろうとは)と、まったく思いもよらず気味悪いけれど、何にもましてこの夕顔がどうなったのかと、お思いになる不安から、自分の危険をお考えになる余裕もなく、(夕顔に)寄り添い伏して、「おいおい。」とお起こしになるが、(夕顔は)ひたすら冷えいるばかりで、息はとっくに絶え果ててしまっていた。なんともいいようがない。


頼もしくいかにと言ひふれたまふべき人もなし、法師などをこそはかかる方の頼もしきものには思すべけれど。さこそ強がりたまへど、若き御心にて、言ふかひなくなりぬるを見たまふに、やる方なくて、つと抱きて、「あが君、生き出でたまへ、いといみじき目な見せたまひそ」とのたまヘど、冷え入りにたれば、けはひもの疎くなりゆく。右近は、ただあなむつかしと思ひける心地みなさめて、泣きまどふさまいといみじ。南殿の鬼のなにがしの大臣おびやかしける例を思し出でて、心強く、「さりともいたづらになりはてたまはじ。夜の声はおどろおどろし。あなかま」と諫めたまひて、いとあわたたしきにあきれたる心地したまふ。
↓ 現代語訳
頼りにして、(この始末を)どうしたらよいかと相談なさることができる人もいない。法師などを、このような(人の死んだ)折の、頼りになる人とは、お思いになるようであるが(ここにはいないし)、(源氏は)あのように(「まろあれば、さやうの物にはおどされじ」)と強がっておられるけれども、(万事につけて経験の)浅い御心であって、(夕顔が)むなしく死んでしまったさまをご覧なられるにつけても、悲しみの晴らしようがなくて、じっと(夕顔の死骸を)抱いて、(源氏は)「あなた、生き返ってください。(私に)たいへんひどく悲しくつらい目を見せなさるなよ。」とおっしゃるけれども、(夕顔は)冷たくなってしまったので、ようすが何だか気味悪くなっていく。右近は、ただ、ああ気味が悪いと思っていた気持ちもすっかりさめて、ひどく泣く様子はたいそう悲しい。(宮中の)紫宸殿(ししんでん)の鬼が、何とかという大臣をおびやかした例を思い出して、心強く、(源氏は)「たとえこういう状態になっても、(この女はこのまま)死んでしまわれまい。夜の(人の泣き)声は、おおげさで(いやだ)。しっ、静かにしなさい。」と、いさめられて、あまり突然の出来事で落ち着かず、(源氏は)途方に暮れて、どうしていいのかわからないといった気持になられる。



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