源氏物語「宵過ぐるほどに 1/4」(夕顔)   問題

原文
 宵過ぐるほど、すこし寝入りたまへるに、御枕上にいとをかしげなる女ゐて、「おのがいとめでたしと見たてまつるをば尋ね思ほさで、かくことなることなき人を率ておはして時めかしたまふこそ、いとめざましくつらけれ」とて、この御かたはらの人をかき起こさむとすと見たまふ。物に襲はるる心地して、おどろきたまへれば、灯も消えにけり。うたて思さるれば、太刀を引き抜きてうち置きたまひて、右近を起こしたまふ。これも恐ろしと思ひたるさまにて参り寄れり。「渡殿なる宿直人起こして、紙燭さして参れと言ヘ」とのたまへば、「いかでかまからん、暗うて」と言へば、「あな若々し」とうち笑ひたまひて、手を叩きたまへば、山彦の答ふる声いと疎まし。(下方に続く)
 
現代語訳

 宵を過ぎるころ、(源氏の君は)少し寝入りなさっておられると、御枕元に、いかにも美しい感じがする女が座っていて、「私が(あなた)をとても素晴らしい方とお慕い申し上げて(おりますのに、その私を)訪ねようともお思いなさらないで、このように格別とりえのない女を連れていらっしゃって、ご寵愛なされるなんて、たいへん侵害で、薄情なしうちでございます。」と言って、おそばにいる夕顔を揺り起こそうとしていると(夢に)ご覧になる。(源氏は)何か魔性の物におそわれるような気がして、目をお覚ましになると、灯火も消えてしまった。(源氏の君は)自然と気味悪くお思いになるので、(魔性の物をおいはらうためのまじないとして)太刀を引き抜いて、(枕もとに)お置きになられて、(夕顔の侍女の)右近をお起こしになられる。この右近も恐ろしいと思っているようすで(源氏のそばに)寄ってきた。「渡殿(わたどの)にいる宿直の者を起こして、紙燭(しそく)をつけて来るように言え。」とおっしゃると、(右近が)「どうしていけましょうか。暗くて」と言うので、「なんとまあ、子供っぽい」とお笑いになって、(それではとみずから)手をたたきなさると、反響の返ってくる音が、ひどく気味が悪い。(下方に続く)


原文
人え聞きつけで参らぬに、この女君いみじくわななきまどひて、いかさまにせむと思へり。汗もしとどになりて、我かの気色なり。「もの怖ぢをなんわりなくせさせたまふ本性にて、いかに思さるるにか」と右近も聞こゆ。いとか弱くて、昼も空をのみ見つるものを、いとほしと思して、「我人を起こさむ。手叩けば山彦の答ふる、いとうるさし。ここに。しばし。近く」とて、右近を引き寄せたまひて、西の妻戸に出でて、戸を押し開けたまへれば、渡殿の灯消えにけり。
 
現代語訳

宿直の者は(すっかり寝込んでいて)聞きつけることができず、誰も来ないうえに、この夕顔はがたがたふるえて、どうしようもないという思いでいる。あせもびっしょりかいて、正体もないようすである。「(このお方は)物恐れをとてもなさいます御性分で(すから)どんなに(恐ろしく)お思いでしょうか。」と、右近も(源氏の君に)申し上げる。(夕顔は)たいへん気が弱くて、昼も空ばかり見て(おびえて)いたのであるが、(源氏は)かわいそうだとお思いになられて、私が宿直人を起こしてこよう。手をたたくとこだまが響いてくるのは、たいへん耳障りだ。ここにしばらくいなさい。この方の近くに。」とおっしゃられて、右近を(夕顔のそばへ)引き寄せなされて、(源氏は)西の妻戸に出て、戸を押し開けなさると、渡殿の灯火も消えてしまっていた。  【夕顔】

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