次の文章は、宮仕えして間もないころ、中宮のところへ参上した兄の大納言伊周から、几帳の後ろに隠れていた作者のそばに来て話しかけられ、続いて関白道隆が参上する場面である。これを読んで、あとの問いに答えよ。
行幸など見る折、車の方にいささかも見おこせ給へば、下簾ひきふたぎて、透影もやと扇をさし隠すに、なほいとわが心ながらも、 aおほけなく、いかで立ち出でしにかと、汗あえていみじきには、何事をかはいらへも聞こえむ。
かしこき陰とささげたる扇をさへ取り給へるに、ふりかくべき髪のおぼえさへ bあやしからむと思ふに、すべて、 @さるけしきもこそは見ゆらめ。 Aとく立ち給はなむと思へど、扇を手まさぐりにして、絵のこと、「誰がかかせたるぞ。」などのたまひて、とみにも給はねば、袖をおしあててうつぶしゐたるも、唐衣に白いものうつりて、まだらならむかし。
久しくゐ給へるを、 c心なう、苦しと思ひたらむと心得させ給へるにや、「これ見給へ。これは誰が手ぞ。」と聞こえさせ給ふを、「給はりて見侍らむ。」と申し給ふを、「なほ、ここへ。」とのたまはす。「人をとらへて立て侍らぬなり。」とのたまふも、 Bいといまめかしく、身のほどに合はず、 dかたはらいたし。人の草仮名書きたる草子など、取り出でて御覧ず。「たれがにかあらむ。かれに見せさせ給へ。それぞ、世にある人の手はみな見知りて侍らむ。」など、ただいらへさせむと、 eあやしきことどもをのたまふ。
ひとところだにあるに、また前駆うち追はせて、同じ直衣の人参り給ひて、これはいま少しはなやぎ、猿楽言などし給ふを、笑ひ興じ、我も「なにがしが、とあること。」など、殿上人のうへなど申し給ふを聞くは、なほ、変化の者、天人などの下り来たるにやとおぼえしを、候ひ慣れ、日ごろ過ぐれば、 Cいとさしもあらぬわざにこそはありけれ。かく見る人々も、みな家の内出でそめけむほどは、 さこそはおぼえけめなど、観じもてゆくに、おのづから面慣れぬべし。
(百八十四段)
問1 aおほけなく、bあやしから、c心なう、dかたはらいたし、eあやしきの意味を次から選び記号で答えなさい。★
ア みっともない イ 当世ふうだ ウ 思いやりがない エ きまりが悪い
オ 身分不相応だ カ とんでもない キ 冷淡だ
問2 @さるけしきもこそは見ゆらめ、Aとく立ち給はなむを現代語訳しなさい。★★
問3 Bいといまめかしく、身のほどに合はずについて
(1)現代語訳しなさい。★★
(2)作者が自分をどうとらえた表現か説明しなさい。★★★
問4 Cいとさしもあらぬわざにこそはありけれで用いられている助動詞はどれか、それぞれの意味・終止形・文中での活用形の名を順に記しなさい。★★
問5 「枕草子」の作者名・ジャンル名・成立した時代・作者が仕えた主人の名(2字)を順に記しなさい。時代は、前・中・後期まで答えること。★
advanced Q. 最終行の「さこそはおぼえけめ」を指示語の内容を明らかにして現代語訳しなさい。
枕草子「宮に初めて参りたるころ」3/3 解答用紙(プリントアウト用)
次の文章は、宮仕えして間もないころ、中宮のところへ参上した兄の大納言伊周が、几帳の後ろに隠れていた作者のそばに来て話しかけている場面である。これを読んで、あとの問いに答えよ。
行幸など見る折、車の方にいささかも見おこせ給へば、下簾ひきふたぎて、透影もやと扇をさし隠すに、なほいとわが心ながらも、 aおほけなく、いかで立ち出でしにかと、汗あえて bいみじきには、何事をかはいらへも聞こえむ。
@かしこき陰とささげたる扇をさへ取り給へるに、ふりかくべき髪のおぼえさへ cあやしからむと思ふに、すべて、さるけしきもこそは見ゆらめ。 Aとく立ち給はなむと思へど、扇を手まさぐりにして、絵のこと、「誰がかかせたるぞ。」などのたまひて、 Bとみにも給は【 】ば、袖をおしあててうつぶしゐたるも、 d唐衣に白いものうつりて、まだらならむかし。
久しくゐ給へるを、 e心なう、苦しと C思ひたらむと D心得させ給へるにや、「これ見給へ。これは誰が手ぞ。」と E聞こえさせ給ふを、「給はりて見侍らむ。」と申し給ふを、「なほ、ここへ。」とのたまはす。「人をとらへて立て侍らぬなり。」と Fのたまふも、いと fいまめかしく、身のほどに合はず、かたはらいたし。人の草仮名書きたる草子など、取り出でて御覧ず。「たれがにかあらむ。かれに見せさせ給へ。それぞ、世にある人の手はみな見知りて侍らむ。」など、ただいらへさせむと、 gあやしきことどもをのたまふ。
ひとところだにあるに、また h前駆うち追はせて、同じ直衣の人(道隆)参り給ひて、これはいま少しはなやぎ、猿楽言などし給ふを、 G笑ひ興じ、我も「なにがしが、とあること。」など、殿上人のうへなど申し給ふを聞くは、なほ、変化の者、天人などの下り来たるにやとおぼえしを、候ひ慣れ、日ごろ過ぐれば、いとさしもあらぬわざにこそはありけれ。かく見る人々も、みな家の内出でそめけむほどは、 Hさこそはおぼえけめなど、観じもてゆくに、おのづから面慣れぬべし。
問1 abefはどういう意味か。適当なものをそれぞれ次の中から選び、記号で答えよ。
ア みっともなく イ 当世ふうで ウ 思いやりがなく エ 上品で
オ 身分不相応に カ 中途半端に キ 冷淡に ク とてもつらい
問2 形容詞「あやし」の意味を辞書で調べると、次のア〜カのような意味がある。傍線部c・gの「あやし」は、どれにあたるか。適当なものをそれぞれ選び、記号で答えよ。
ア 不思議だ イ 並々でない ウ 疑わしい
エ 不都合だ オ 見苦しい カ 卑しい
問3 dhの読みを、それぞれ現代仮名遣いの平仮名で記せ。
問4 @を「さえ」の用法が分かるように現代語訳しなさい。
Aについて、(1)「なむ」を文法的に説明しなさい。(2)Aを現代語訳しなさい。
Bについて、(1)【 】の空欄に、助動詞「ず」を適当な形にして記しなさい。(2)Bを現代語訳しなさい。
問5 CDFGの主語はだれか。適当なものをそれぞれ次の中から選び、記号で答えよ。
ア 中宮 イ 大納言伊周 ウ 関白道隆 エ 女房たち オ 作者
問6 傍線部にH「さこそはおぼえけめ」とあるが、どのように思われたというのか。「さ」の指示する内容を抜き出し、初めと終わりの三字で答えよ。
問7 大納言伊周が作者の傍らに長らく座っているため、作者ははずかしさのために苦痛なまでに困惑しきっている。
(1)そういう状況を見て、伊周の関心を作者からそらそうとして発言した、中宮の言葉が二つある。その最初の発言を抜き出せ。
(2)作者への配慮のうかがわれる中宮の発言に対して、作者が飛び上がらんばかりの赤面するような冗談でもって、大納言は答えている。その発言を抜き出せ。
問8 問題になっている文章の作者名・作品名・ジャンルの名・成立した時代を順に記しなさい。時代は、前、中、後期まで答えること。
枕草子「宮に初めて参りたるころ」3/3 exercise 解答用紙(プリントアウト用)
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