急に幻滅とかを感じるものは、男でも女でも、(話し)言葉を下品に使ったこと(で、それ)は、何にもましてみっともない。ただ言葉遣い一つで、不思議なことに、上品にも下品にもなるのは、どういうわけなのだろうか。そうはいうものの、こんなことを思っている私本人が、とくに(言葉遣いに)すぐれているわけでもあるまいよ。(だから、)どれをよしとし、どれを悪いと判別するのか(わかりはしない)。だが、他人のことはどうだか知らないが、ただ自分の気持ちではそう思われるのである。
下品な言葉も、まずい言葉も、それと知りながらわざと使ったのは、悪くもない。(が、)自分勝手にこじつけたことを、はばかりなく口にしたのは、あきれたことだ。また、そんな(ひどい言葉遣いをする)はずのない老人とか男などが、ことさらに言葉をとりつくろい、田舎びた言葉を使うのは、いやらしい。よくない言葉も、粗野な言葉も、相当の年輩の人は、平然としゃべっているのを、若い人は、(聞いていて)ひどくきまり悪いことと思ってじっと聞いているのは、もっとものことだ。
何事を言っても、「そのことさせむとす」(そのことはそうしよう)「言はむとす」(言おうと思う)「何せむとす」(何々しよう)という(ときの「むとす」の)「と」文字の発言を省いて、ただ「言はむずる」(言おう)「里へ出でむずる」(里へ下がろう)などと言うと、たちまちひどくいやに聞こえる。まして、(そんな表現は)文章に書いては(そのまずいことといったら)言うまでもない。物語などの場合になると、まずい言葉遣いで書いてあると、どうしようもなく、作者まで(常識が疑われ、)おかわいそうにと思われる。(「同乗して」の意味の「一つ車に」をなまって)「ひてつ車に」と言った人もいた(。こんなのは極端だが)。「求む」という言葉を「みとむ」などとは(誤りではあるが、一般化して)、世間のだれもが言うようだ。(第百八十六段)
advanced Q. 次より本文の趣旨に合致するものを選びなさい。正答は1つとは限らない。ただし、正答の数を越えている場合その数分減点となります。
イ 書き言葉は、とくに正しくしなければならない。
ロ 上品な言葉遣いを心がけるべきである。
ハ 表記と言語は次元を異にするものである。
ニ 伝統を無視した言葉の使用はいけない。
ホ 言語は歴史的に変化するものである。
へ 時代を無視して言葉遣いの適否は決められない。
ト 言葉遣いが年齢によって差があるのは当然だ。
チ ぞんざいな言葉遣いは年長者にすべきでない。
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