源氏物語「須磨での天変」3/3 (明石巻)   問題

 光源氏27歳。光源氏は、政情が変化して不都合なことばかりが起こるので、須磨に退くことを決意する。その須磨で禊(みそぎ)のため海辺に出て祓(はらえ)をするうちに、にわかにかき曇り、防風・雷雨・津波などの危難にあう。風雨は数日続き、ついには館(やかた)に落雷する。次第に荒天はおさまる場面である。


 やうやう風なほり、雨の脚しめり、星の光も見ゆるに、この御座所のいとめづらかなるも、いとかたじけなくて、(光源氏を)寝殿に返し移したてまつらむとするに、「焼け残りたる方も a疎ましげに、そこらの人の踏みとどろかしまどへるに、 b御簾などもみな吹き散らし cけり」。「夜を明かしてこそは」とたどりあへるに、君は御念誦したまひて、思しめぐらすに、いと心あわたたし。月さし出でて、潮の近く満ち来ける跡もあらはに、なごりなほ寄せかへる波荒きを、柴の戸おし開けてながめおはします。近き世界に、ものの心を知り、来し方行く先のことうちおぼえ、とやかくやとはかばかしう悟る人もなし。 dあやしき海人どもなどの、貴き人おはする所とて、集まり参りて、聞きも知りたまはぬことどもをさへづりあへるも、いとめづらかなれどえ追ひも払はず。「この風いましばし止まざらましかば、潮上りて残る所なからまし。神の助け  eおろかならざりけり」と言ふを聞きたまふも、いと心細しと言へばおろかなり。
  海にます神のたすけにかからずは @潮のやほあひにさすらへなまし
終日にいりもみつる雷の騒ぎに、 Aさこそいへ、いたう困じたまひにければ、心にもあらずうちまどろみたまふ。かたじけなき御座所なれば、ただ寄りゐたまへるに、故院ただ Bおはしまししさまながら立ちたまひて、「などかく fあやしき所にはものするぞ」とて、御手を取りて引き立てたまふ。「住吉の神の導きたまふままに、はや舟出してこの浦を去りね」とのたまはす。いとうれしくて、「かしこき御影に別れたてまつりにしこなた、さまざま悲しきことのみ多くはべれば、今はこの渚に身をや棄てはべりなまし」と C聞こえたまへば、「いとあるまじきこと。これはただいささかなる物の報いなり。我は位に在りし時、過つことなかりしかど、おのづから犯しありければ、その罪を終ふるほど暇なくて、この世をかへりみざりつれど、いみじき愁へに沈むを見るにたへがたくて、海に入り、渚に上り、いたく困じにたれど、かかるついでに D内裏に奏すべきことあるによりなむ急ぎ上りぬる」とて立ち去りたまひぬ。
 g飽かず悲しくて、御供に参りなんと泣き入りたまひて、見上げたまへれば、人もなく、月の顔のみきらきらとして、夢の心地もせず、御けはひとまれる心地して、空の雲あはれにたなびけり。年ごろ夢の中にも見たてまつらで、恋しうおぼつかなき御さまを、 Eほのかなれどさだかに見たてまつりつるのみ面影におぼえたまひて、我かく悲しびをきはめ、命尽きなんとしつるを助けに翔りたまヘるとあはれに思すに、よくぞかかる騒ぎもありけると、なごり頼もしううれしうおぼえたまふこと限りなし。胸つとふたがりて、なかなかなる御心まどひに、現の悲しきこともうち忘れ、夢にも御答へをいますこし聞こえずなりぬることと hいぶせさに、またや見えたまふとことさらに寝入りたまへど、さらに御目もあはで暁方になりにけり。

問1 a疎ましげに・dあやしき・eおろかなら・fあやしき・g飽かず・hいぶせさの意味を、活用語は基本形で記しなさい。★
   b御簾の読みをひらがなで記しなさい。★
   cを文法の観点から説明しなさい。★

問2 @潮のやほあひにさすらへなまし・Bおはしまししさまながらを口語訳しなさい。★★

問3 Aさこそいへの「さ」の指示内容を記しなさい。★★

問4 C聞こえたまへを敬語の用法の観点から簡潔に説明しなさい。★★

問5 D内裏に奏すべきこととはどのようなことと推測できるか。★★★

問6 Eほのかなれどさだかに見たてまつりつるで、「ほのかなれ」と「さだかに」は矛盾するように思えるが、どういうことか説明しなさい。★★★

問7 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★


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