源氏物語「紫の上の死 2/3」(御法)   問題

 次の文章は、紫の上を失った光源氏が深い嘆きの底に沈んでいるところに、その正妻であった故葵上の兄であり、大将夕霧の伯父にあたる致仕の大臣(昔の「頭の中将」)が弔問する件である。これを読んで後の問いに答えなさい。

 致仕の大臣、あはれをも折過ぐし給はぬ御心にて、かく世にたぐひなくものし給ふ人の、はかなく失せ給ひぬることを、くちをしくあはれにおぼして、いとしばしば問ひ聞こえ給ふ。昔、大将の御母上失せ給へりしも、このころのことぞかしと、おぼし出づるに、いともの悲しく、「その折、かの御身を惜しみ聞こえ給ひし人の、多くも失せ給ひにけるかな。 Aおくれ先だつほどなき世なりけりや。」など、しめやかなる夕暮れにながめ給ふ。空のけしきもただならねば、御子の蔵人少将して  B奉り給ふ。あはれなることなど、こまやかに聞こえ給ひて、端に、
  いにしへの秋【  C  】今の心地してぬれにし袖に露ぞ置き添ふ
御返し、
  露けさは昔今とも思ほえずおほかた秋の夜こそつらけれ
もののみ悲しき御心のままならば、待ちとり給ひては、心弱くもと、目とどめ給ひつべき大臣の御心ざまなれば、めやすきほどにと、「たびたびのなほざりならぬ御とぶらひの重なりぬること。」と、 @よろこび聞こえ給ふ。
 「薄墨。」とのたまひしよりは、いま少しこまやかにて D奉れり。世の中に幸ひあり、めでたき人も、あいなうおほかたの世にそねまれ、よきにつけても、心の限りおごりて、人のため苦しき人もあるを、あやしきまで、すずろなる人にも受けられ、はかなくし出で給ふことも、何事につけても、世にほめられ、 A心にくく、折ふしにつけつつ、らうらうじく、 Bありがたかりし人の御心ばへなりかし。さしもあるまじきおほよその人【  E  】、そのころは、風の音、虫の声につけつつ、涙落とさぬはなし。まして、ほのかにも見奉りし人の、思ひ慰むべき世なし。年ごろむつましくつかうまつり慣れつる人々、しばしも残れる命恨めしきことを嘆きつつ、尼になり、この世のほかの山住みなどに思ひ立つもありけり。

問1 @よろこび、A心にくく、Bありがたかりの意味を、活用語の場合は言い切りの形にして記しなさい。★
問2 Aおくれ先だつほどなき世なりけりやの「おくれ先だつ」は、『古今和歌六帖』の「末の露本のしづくや世の中のおくれ先だつためしなるらむ」をふまえている。歌の「末の露」・「本のしづく」とは、本文の場合、これに該当するのは何か。本文中の言葉で答えよ。 ★★★

問3 B奉り、D奉れの意味用法上の異同を説明しなさい。★★

問4  空欄 CEには同じ副助詞が入る。文意が通るよう、その副助詞を記しなさい★★

問5 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★



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源氏物語「紫の上の死 2/3」(御法)   exercise

 次の文章は、紫の上が亡くなって悲しみにふける源氏に、正妻であった故葵の上の兄であり、大将夕霧の伯父にあたる致仕の大臣が、弔問するくだりである。これを読んで、あとの問いに答えよ。

 致仕の大臣、 @あはれをも折過ぐし給はぬ御心にて、かく世にたぐひなくものし給ふ人の、はかなく失せ給ひぬることを、くちをしくあはれにおぼして、いとしばしば問ひ聞こえ給ふ。昔、大将の御母上失せ給へりしも、このころのことぞかしと、おぼし出づるに、いともの悲しく、「その折、かの御身を惜しみ聞こえ給ひし人の、多くも失せ給ひにけるかな。 Aおくれ先だつほどなき世なりけりや。」など、しめやかなる夕暮れにながめ給ふ。 B空のけしきもただならねば、御子の蔵人少将して C奉り給ふ。あはれなることなど、aこまやかに聞こえ給ひて、端に、
  いにしへの秋(    )今の心地してぬれにし袖に D露ぞ置き添ふ
E御返し
  露けさは昔今とも思ほえずおほかた秋の夜こそつらけれ
もののみ悲しき御心のままならば、待ちとり給ひては、心弱くもと、目とどめ給ひつべき大臣の御心ざまなれば、めやすきほどにと、「たびたびのなほざりならぬ御とぶらひの重なりぬること。」と、 cよろこび聞こえ給ふ。
 「薄墨(※)。」とのたまひしよりは、いま少し dこまやかにて奉れり。世の中に幸ひあり、めでたき人も、 eあいなうおほかたの世にそねまれ、よきにつけても、心の限りおごりて、人のため苦しき人もあるを、 fあやしきまで、すずろなる人にも受けられ、はかなくし出で給ふことも、何事につけても、世にほめられ、 g心にくく、折ふしにつけつつ、らうらうじく、hありがたかりし人の御心ばへなりかし。 Fさしもあるまじきおほよその人(      )、そのころは、風の音、虫の声につけつつ、涙落とさぬはなし。まして、ほのかにも見奉りし人の、思ひ慰むべき世なし。 j年ごろむつましくつかうまつり慣れつる人々、しばしも残れる命恨めしきことを嘆きつつ、尼になり、この世のほかの山住みなどに思ひ立つもありけり。
  ※薄墨=葵の上逝去のときによんだ源氏の歌に、「限りあれば薄墨衣浅けれど涙ぞ袖をふちとなしける」とある。

問1 傍線部a・c・d・e・f・g・h・jの語の意味を10字を越えない範囲で記しなさい。

問2 空欄には同じ副助詞が入る。文意が通るようその副助詞を記しなさい。

問3 傍線部@について、次の問いに答えよ。
   (1)@のかかる文節を記しなさい。

   (2)「にて」を文法の観点から説明しなさい。

問4 傍線部Aについて、次の問いに答えよ。
   (1)「おくれ先だつ」は、『古今和歌六帖』の「末の露本のしづくや世の中のおくれ先だつためしなるらむ」をふまえている。「おくれ先だつ世なりけりや」は、どういう感慨を表したものか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。

      ア 歳月の過ぎるのは早いものだ  イ 悲しみの涙もかれてしまったことだ
      ウ 人生ははかないものだ     エ 人の心は薄情なものだ

   (2)歌に、「末の露」・「本のしづく」とあるが、本文の場合、これに該当するのは、何か。本文中の言葉で答えよ。

問5 傍線部Bは、「」がどうであり、どういうことを推し量っているのか。わかりやすく説明しなさい。

   傍線部Cを敬語法の観点で解説しなさい。人物は、紫の上・源氏・葵の上・夕霧・致仕の大臣・蔵人少将・作者を使うこと。

   傍線部Eとは、わかりやすく言うとどういう人か。

問6 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。

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