家居のつきづきしく、あらまほしこそ、 仮の宿りとは思へど、興あるものなれ。
よき人の、のどやかに住みなしたる所は、さし入りたる月の色も、ひときはしみじみと見ゆるぞかし。 @今めかしくきららかならねど、木立もの古りて、 Aわざとならぬ庭の草も心あるさまに、簀子、透垣すいがいのたよりをかしく、うちある調度も昔おぼえて Bやすらかなるこそ、 C心にくしと見ゆれ。
多くの工たくみの心を尽くしてみがきたて、唐の、大和の、珍しく、えならぬ調度ども並べ置き、 D前栽の草木まで心のままならず作りなせるは、見る目も苦しく、いとわびし。「さてもやは長らへ住むべき。また、時の間の煙ともなりなん。」とぞ、うち見るより思はるる。おほかたは、家居にこそ、ことざまは推しはからるれ。
後徳大寺の、寝殿に鳶ゐさせじとて縄を張られたりけるを、西行が見て、「鳶のゐたらんは、何かは苦しかるべき。この殿の御心、 Eさばかりにこそ。」とて、その後は参らざりけると聞きはべるに、綾小路の宮のおはします小坂殿の棟に、いつぞや縄を引かれたりしかば、かの例思ひ出でられはべりしに、「まことや、烏の群れゐて池の蛙を取りければ、御覧じ悲しませたまひてなん。」 と人の語りしこそ、「 Fさてはいみじくこそ。」とおぼえしか。 G徳大寺にもいかなるゆゑかはべりけん。【十段】
問1 @今めかしく、Aわざとならぬ、Bやすらかなる、C心にくしと内容上対立する言葉を文中からそれぞれ七字以内で抜き出せ。★★
問2 D前栽の読みと意味を記しなさい。★
問3 Eさばかりにこその内容を、文意に即して簡潔に記しなさい。★★★
問4 Fさてはいみじくこそを現代語訳しなさい。★★
問5 G徳大寺にもいかなるゆゑかはべりけんという言い方から、筆者のどういう思考の仕方の特徴がうかがえるか。所見を述べなさい。★★★
問6 問題本文の筆者名を漢字2字で、また、成立した時代を次から選び記号で記しなさい。
イ 奈良 ロ 平安 ハ 鎌倉 ニ 室町 ホ 江戸 へ 明治
advanced Q. 仮の宿りとは思へどについて、
(1) 同様の考え方を、本文の他のところでも見せている。その個所を抜き出しなさい。
(2) このような物の見方を一般にどう呼ぶか。漢字二字の語に「観」をつけて記しなさい。
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