いでや、この世に生まれては、願はしかるべきことこそ @多かめれ。
帝の御位はいとも aかしこし。竹の園生の末葉まで、人間の種ならぬぞ bやんごとなき。一の人の御ありさまはさらなり、ただ人も、舎人など給はるきははゆゆしと見ゆ。その子・孫までは、はふれにたれど、なほ cなまめかし。それより下つ方は、ほどにつけつつ、時に合ひ、したり顔なるも、みづからはいみじと思ふらめど、いと dくちをし。
法師ばかりうらやましからぬものはあらじ。「人には木の端のやうに思はるるよ。」と清少納言が書けるも、げにさることぞかし。いきほひ猛に、 Aののしりたるにつけて、いみじとは見えず。増賀聖の言ひけんやうに、名聞苦しく、仏の御教へにたがふらんとぞ【 e 】。ひたふるの世捨て人は、なかなかあらまほしき方もありなん。
α人は、かたち・ありさまのすぐれたらんこそ、あらまほしかるべけれ。ものうち言ひたる、聞きにくからず、愛敬ありて、言葉多からぬこそ、飽かず向かは【 f 】。めでたしと見る人の、心劣りせらるる本性見えんこそ、くちをしかるべけれ。
β品・かたちこそ生まれつきたらめ、心はなどか、賢きより賢きにも移さば移らざらん。かたち・心ざまよき人も、才なくなりぬれば、品下り、顔憎さげなる人にも立ちまじりて、かけず、けおさるるこそ、本意なきわざなれ。
γありたきことは、まことしき文の道、作文、和歌、管弦の道、また有職に公事の方、人の鏡ならんこそいみじかるべけれ。手などつたなからず走り書き、声をかしくて拍子とり、 Bいたましうするものから、下戸ならぬこそ、男はよけれ。(第一段)
問1 aかしこし bやんごとなき cなまめかし dくちをしの意味として適当なものをそれぞれ次の中から選び、記号で答えよ。★
ア 優雅である イ かわいらしい ウ 恐れ多い エ 立派である
オ 情けない カ 趣がある キ 貴い ク 訳が分からない
問2 空欄eには動詞の語「おぼゆ」、fには助動詞の語「まほし」を適当な形にして記しなさい。★
問3 @多かめれを文法の観点から簡潔に解説しなさい。★★
問4 Aののしりたるにつけて、いみじとは見えず Bいたましうするものから、下戸ならぬを口語訳しなさい(「下戸」は別の語句に言い換えること)。★★
advanced Q. α・β・γの段落をそれぞれ30字以内で要約しなさい。
徒然草「いでや、この世に生まれては」 解答用紙 へ(プリントアウト用) へ
現代文のインデック | 古文のインデックス | 古典文法 | 漢文 | トップページ |
---|