次の文章は、筆者が中宮のもとに初めて出仕したときの記事である。よく読んで後の問いに答えなさい。
宮に初めて参りたるころ、もののはづかしきことの数知らず、涙も落ちぬべければ、夜々参りて、三尺の a御几帳の後ろに候ふに、絵など取り出でて見せさせ給ふを、 @手にてもえさし出づまじう、わりなし。「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまはす。 b高坏に参らせたる大殿油なれば、髪の筋なども、Aなかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、念じて見などす。いとつめたきころなれば、さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしましけれと、 おどろかるるまでぞ、まもり参らする。
暁にはとく下りなむといそがるる。「葛城の神もしばし。」など仰せらるるを、いかでかは筋かひ御覧ぜられむとて、なほ伏したれば、御格子も参らず。女官ども参りて、「これ、放たせ給へ。」など言ふを聞きて、女房の放つを、「まな。」と仰せらるれば、笑ひて帰りぬ。ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、久しうなりぬれば、「下りまほしうなりにたらむ。Bさらば、はや。夜さりは、とく。」と仰せらる。ゐざり隠るるや遅きと、上げちらしたるに、雪降りにけり。登花殿の御前は、 c立蔀近くてせばし。雪いとをかし。
昼つ方、「今日は、なほ参れ。雪に曇りてあらはにもあるまじ。」など、たびたび召せば、この局のあるじも、「見苦し。さのみやは籠りたらむとする。 Cあへなきまで御前許されたるは、さおぼしめすやうこそあらめ。思ふにたがふはにくきものぞ。」と、ただいそがしに出だし立つれば、あれにもあらぬ心地すれど参るぞ、いと苦しき。火焼屋の上に降り積みたるも、めづらしう、をかし。(百八十四段)
問1 a御几帳、b高坏、c立蔀の読みを現代仮名遣いのひらがなで記しなさい。★
問2 Aなかなか昼よりも顕証に見えてまばゆけれど、念じて見などすを現代語訳しなさい。★★
問3 Bさらば、はや。夜さりは、とく。を省略されている内容を補って現代語訳しなさい。★★
問4 Cあへなきまで御前許されたるは、さおぼしめすやうこそあらめ。思ふにたがふはにくきものぞ。について、
(1)あへなきまで御前許されたるは、さおぼしめすやうこそあらめ。を現代語訳しなさい。★★
(2)「おぼしめす」と「思ふ」の使い分けがされている理由を説明しなさい。★★★
問5 「枕草子」の作者名・ジャンル名・成立した時代・作者が仕えた主人の名(2字)を順に記しなさい。時代は、前・中・後期まで答えること。★
advanced Q.1 @手にてもえさし出づまじう、わりなしと、なぜ思ったのか説明しなさい。
advanced Q.2 おどろかるるまでぞ、まもり参らするの「るる」を自発ととる場合と尊敬ととる場合、どういう意味になるか。それぞれ主語を補って現代語訳しなさい。
枕草子「宮に初めて参りたるころ」1/3 解答用紙(プリントアウト用)
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