『古今和歌集』の綴じ本を(中宮様は)ご自分の前にお置きになって、歌の上(かみ)の句を仰せになって、「この下(しも)の句は、何か。」とお尋ねになるのに、総じて、夜昼、念頭にあって覚えている歌もあるが、(それを)すらすらとお答え申し上げられないのは、いったいどうしたわけか。(才女の誉れ高い)宰相の君は十ほど(お答えになるが)、それだって覚えているうちに入るだろうか、いや、入るまい。まして、五つ、六つくらいでは、(覚えていても)「全く記憶にありません。」とお答えするほうがよさそうだが、「そんなふうに、そっけなく、(中宮様の)ご質問の興をそぐような返事ができましょうか、いいえ、できません。」と、女房たちが愚痴を言い、悔しがる様子も、おもしろい。知っていると申し出る人のない歌は、そのまま下の句まで読み続けて、(中宮様が)その場所にしおりをおはさみになるのを、「これは、知っていた歌だわ。なぜこんなに、できが悪いのかしら。」と嘆息する。中でも、『古今集』を何度も繰り返して書き写しなどする人は、全部でも思い出して当然のところだわよ。
advanced Q. この文章には、女房たちの興奮した、はしゃいだ雰囲気が感じられ、中宮のそばにいて楽しく過ごす作者の気持ちがうかがわれる。そうした作者の気持ちをよく表す心情語を本文中から抜き出せ。
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