むかし、惟喬の親王と申す親王おはしましけり。山崎のあなたに、水無瀬といふ所に宮ありけり。年ごとの桜の花ざかりには、その宮ヘ イなむおはしましける。その時右馬頭なりける人を常に率ておはしましけり。時世ヘて久しくなりにければ、その人の名忘れにけり。狩はねむごろにも ロせで酒をのみ飲みつゝ、やまと歌にかゝれりけり。いま狩する交野の渚の家、その院の桜ことにおもしろし。その木のもとにおりゐて、枝を折りて、かざしにさして、かみなかしもみな歌よみけり。馬頭なりける人のよめる、
A 世のなかに絶えて桜のなかり ハせば春の心はのどけからまし
となむよみたりける。また人の歌、
B 散ればこそいとゞ桜はめでたけれうき世になにか久しかるべき
とて、その木の下はたちてかヘるに、日暮になりぬ。御供なる人酒をもた ニせて、野より出できたり。この酒を飲みてむとて、よき所をもとめ行くに、天の河といふ所にいたりぬ。親王に馬頭おほみきまゐる。親王ののたまひける、「交野を狩りて、天の河のほとりにいたるを題にて、歌よみて杯はさせ」とのたまうければ、かの馬頭よみて奉りける、
C 狩り暮らしたなばたつめに宿からむ天の河原に我は来にけり
親王歌をかヘすがへす誦じ給うて、返しえし給はず。紀有常御供に仕うまつれり。それがかヘし、
D 一とせにひとたび来ます君まてば宿かす人もあらじとぞ思ふ
かヘりて宮に入ら ホせ給ひぬ。夜ふくるまで酒飲み物語して、あるじの親王、ゑひて入り給ひ ヘなむとす。十一日の月もかくれ トなむとすれば、かの馬頭のよめる、
E あかなくにまだきも月のかくるゝか山の端にげて入れずもあら チなむ
親王にかはり奉りて、紀有常、
F おしなべて峯もたひらになりな リなむ山の端なくは月もいらじを。
問1 イ・ヘ・ト・チ・リの「なむ」の異同を記しなさい。
問2 ロ・ハ・ニ・ホの「に」の異同を記しなさい。
問3 A歌中の助動詞「まし」の意味用法について、歌の内容に沿って説明しなさい。
問4 B歌はA歌に対してどういう主張となっているのか。
問5 C歌の上の句を現代語訳しなさい。
問6 D歌は、C歌に対して何を言うものか。
問7 E歌を現代語訳しなさい。
問8 F歌は、E歌に対して何を言うものか。
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