竹取物語「かぐや姫の昇天」2/2  現代語訳

 天人の中に持たせたる箱あり。天の羽衣入れり。またあるは、不死の薬入れり。一人の天人言ふ、「壷なる御薬奉れ。穢き所の物聞こしめしたれば、御心地悪しからむものぞ」とて、持て寄りたれば、いささか嘗め給ひて、少し形見とて、脱ぎ置く衣に包まむとすれば、ある天人包ませず。
  天人の中(のある者)に持たせている箱がある。天の羽衣が入っている。また別のには、不死の薬が入っている。一人の天人が言うには、「壺にあるお薬お飲みください。けがれた所のものを召し上がったので、お気持ちが悪いことでしょう。」と言って、(薬を)持ってそばに寄ったので、(かぐや姫は)ほんの少しおなめになって、(残りを)少し形見にと思って、脱いでおく着物に包もうとすると、そこにいる天人が包ませない。



 御衣を取り出でて着せむとす。その時に、かぐや姫、「しばし持て」と言ふ。「衣着せつる人は、心異になるなりといふ。物一言、言ひ置くべき事ありけり」と言ひて、文書く。天人、遅しと、心もとながり給ふ。かぐや姫、「物知らぬことなのたまひそ」とて、いみじく静かに、朝廷に御文奉り給ふ。あわてぬさまなり。
 (箱から)天の羽衣を取り出して(かぐや姫に)着せようとする。その時に、かぐや姫は、「しばらくお待ちなさい。」と言う。「羽衣を着せられた人は、心が(人間と)違う状態になるのだと言う。一言言っておかねばならないことがありますよ。」と言って、手紙を書く。天人は、「遅くなります。」とじれったがりなさる。かぐや姫は、「ものの情けを知らぬことを、おっしゃらないで。」と言って、たいそう静かに、帝にお手紙を差し上げなさる。落ち着いた様子である。



 「かくあまたの人を賜ひて留めさせ給へど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、かくわづらはしき身にて侍れば、心得ず思しめされつらめども、心強く承らずなりにしこと。なめげなる者に思しめし留められぬるなむ、心にとまり侍りぬる。」
とて
 今はとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける
とて、壷の薬添へて、頭中将呼び寄せて奉らす。中将に、天人取りて伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし、愛しと思しつることも失せぬ。この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて、百人ばかり天人具して、昇りぬ。
 「このようにたくさんの人を派遣なされて、お引き止めなさいますが、(地上にいることを)許さない迎えがやって参りまして、(私を)連れて参ってしまいますので、残念で悲しいことです。帝の求婚にお応え申しあげないでしまいましたのも、このように面倒な身の上でございますので、納得できないとお思いになられたでしょうが、(私が)強情にお受けせずになってしまいましたことを、無礼な者とお心にとどめなさってしまうことが、心残りでございます。」
と書いて、
  今はお別れの時と思って、天の羽衣を着るが、その時になって、あなた様のことをしみじみと思い出している私でございます
と詠んで、(手紙に)壺の薬を添えて、頭中将を呼び寄せて(帝に)差し上げさせる。中将に、天人が取り次いで渡す。中将が受け取ると、(天人が)さっと天の羽衣をお着せ申しあげたので、(かぐや姫は)翁を、気の毒だ、いとしいとお思いになったことも消えてしまった。この羽衣を着た人は、思い悩むことがなくなってしまうので、(かぐや姫は)車に乗って、百人ほどの天人を引き連れて(天に)昇ってしまった。




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