aひととせ、入道殿(道長)の、大井川に b逍遥せさせ給ひしに、作文の舟・管弦の舟・和歌の舟と分かたせ給ひて、その道にたへたる人々を乗せさせ給ひしに、この大納言殿(藤原公任)の参り給へるを、入道殿、「かの大納言、いづれの舟にか乗らるべき。」とのたまはすれば、「和歌の舟に乗り侍らむ。」とのたまひて、よみ給へるぞかし、
小倉山嵐の風の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき
申し受け給へるかひありて、あそばしたりな。御みづからものたまふ cなるは、「作文のにぞ乗るべかりける。さて、 dかばかりの詩を作りたらましかば、名の上がらむこともまさりなまし。くちをしかりけるわざかな。さても、殿の、『いづれにかと思ふ。』とのたまはせしになむ、我ながら心おごりせられき。」とのたまふなる。 e一事のすぐるるだにあるに、かくいづれの道も抜け出で給ひけむは、いにしへも侍らぬことなり。
問1 本文中で、意図的に文法上の誤用をした活用語がある。それはどれか、正したものを記しなさい。★★
問2 aひととせを、漢字に改め、その意味を3字以内で記しなさい。★
問3 (1)b逍遥せの「逍遥」の意味を3字で記しなさい。(2)cなるの品詞名・文法上の意味・活用形の名を記しなさい。★
問4 dかばかりを、指示内容を明らかにして口語訳しなさい。★★
問5 e一事のすぐるるだにあるにを分かりやすく口語訳しなさい。★★
問6 「道長」は「藤原公任」をどのような人物と見ていたか、簡潔に述べなさい。★★★
問7
(1)「大鏡」と対比される同時代の歴史物語は何か。★
(2)「大鏡」に続く「鏡物」を時代順に三つ記しなさい。★
(3)藤原公任の著した歌論書の名を記しなさい。★
advanced Q. e一事のすぐるるだにあるにの「ある」の直前に補える語句は何か、10字以内で記しなさい。
aひととせ、入道殿の、大井川に b逍遥せさせ給ひしに、作文の舟・管弦の舟・和歌の舟と分かたせ給ひて、その道に cたへたる人々を乗せさせ給ひしに、この大納言殿の参り給へ dるを、入道殿、「かの大納言、いづれの舟にか乗ら eるべき。」とのたまはすれば、「和歌の舟に乗り侍らむ。」とのたまひて、よみ給へるぞかし、
@小倉山嵐の風の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき
申し受け給へるかひありて、あそばしたり fな。御みづからものたまふなるは、「作文のにぞ乗るべかりける。さて、 Aかばかりの詩を作りたら【 】ば、名の上がらむこともまさり gなまし。くちをしかりけるわざかな。さても、 B殿の、『いづれにかと思ふ。』とのたまはせしになむ、我ながら心おごりせられし。」とのたまふなる。 C一事のすぐるるだにあるに、かくいづれの道も抜け出で給ひけむは、いにしへも侍らぬことなり。
問1 abcの文中で意味をそれぞれ六字以内で答えよ。活用語は言い切りの形で記すこと。
問2 defgの文法的説明として適当なものを次の中からそれぞれ選び、記号で答えよ(同じものを二度答えてはいけない)。
ア 受身の助動詞 イ 尊敬の助動詞 ウ 完了の助動詞
エ 強意の助動詞 オ 禁止の終助詞 カ 詠嘆の終助詞
問3 @歌の修辞について説明しなさい。
問4 Aについて、
(1) 空欄に適当な助動詞を記し、その文法上の意味を答えなさい。
(2) (1)の「文法上の意味」が分かるように全体を口語訳しなさい。
問5 Bに「殿の、『いづれにかと思ふ。』とのたまはせしになむ、我ながら心おごりせられし。」とあるが、それはなぜか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 道長が公任の学才を認めて、「いずれにかと思う。」と聞いたので。
イ 道長が公任の所在を尋ねて、「いずれに行ったと思うか。」と聞いたので。
ウ 道長が、どちらがよいと思うかと言ったので、自分の歌才がすぐれていると得意になったから。
エ 道長が、どこに行ったのかと尋ねたので、こんなにまで自分のことに関心が深いのだと思って、我ながら得意になったから。
問6 C「一事のすぐるるだにあるに」について、
(1)「だに」の直後に補える表現を記しなさい。
(2)(1)に基づいて、全体を口語訳しなさい。
問7 この話は、主としてどういうことを伝えようとしたのか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 大納言殿が才をたのんで失敗したこと。
イ 大納言殿が多才の人であったこと。
ウ 入道殿が人をおだてるのに長じていたこと。
エ 入道殿が人の才を見抜くことに長じていたこと。
オ 入道殿と大納言殿は互いに信頼しあっていたこと。
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