枕草子「村上の先帝の御時に」(百八十二段) 現代語訳

 村上の先帝の御時に、雪のいみじう降りたりけるを、様器に盛らせ給ひて、梅の花をさして、月のいと明かきに、「これに歌よめ。いかが言ふべき。」と、兵衛の蔵人に給はせたりければ、「雪・月・花の時」と奏したりけるをこそ、いみじうめでさせ給ひけれ。「歌などよむは世の常なり。かく、折に合ひたることなむ、言ひがたき。」とぞ仰せられける。
 先の村上天皇の御時に、雪がたいそう降ったのを、白い陶器にお盛りになって、それに梅の花をさして、月がとても明るい夜に、「これについて歌をよめ。どのように詠むのがよいか。」と、蔵人の兵衛という女房にご下命になったところ、(彼女は)「雪・月・花の時」と(『白氏文集』の一句で)お答え申し上げた、この返事を、(帝は)とてもおほめになった。「(こんなとき)歌などをよむのはありきたりなものだ。このように、その場その時にぴったり合った言葉は、容易に言えないものだ。」と仰せになった。


 同じ人を御供にて、殿上に人候はざりけるほど、たたずませ給ひけるに、火櫃にけぶりの立ちければ、「かれは何ぞと見よ。」と仰せられければ、見て帰り参りて、
  わたつ海のおきにこがるる物見ればあまの釣りしてかへるなりけり と奏しけるこそをかしけれ。蛙の飛び入りて焼くるなりけり。
 同じ兵衛の蔵人をお供にして、殿上の間にだれも伺候していなかったとき、(帝が)たたずんでおられると、火鉢から煙が立ち上ったので、「あれは何の煙か見てまいれ。」と仰せになったので、(彼女は)見ておそばに帰ってきて、
  わたつ海の…【海の沖に漕がれている(航行している)ものを見たら、海士(あま)が釣りをして帰るところでした――赤くおこっている炭火の燠(おき)に焦げているものを見たら、それは蛙(かえる)でした。】
とお答え申し上げたのは本当におもしろい。(実は)蛙が飛び込んで焼けているのであったよ。
 (第百七十五段)

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