つくづくと思ひつづくることは、 @なほいかで心として死にもしにしがなと思ふよりほかのこともなきを、ただ Aこの一人ある人を思ふにぞ、いと悲しき。人となして、 後ろ安からむ妻などにあづけてこそ死にもこころやすからむとは思ひしか、いかなる心地してさすらへむずらむと思ふに、なほいと死にがたし。「いかがはせむ。かたちを変へて、世を思ひ離るやと試みむ。」と語らへば、まだ深くもあらぬなれど、いみじうさくりもよよと泣きて、「さなりたまへば、まろも法師になりてこそあら【 B 】。何せむにかは、世にもまじらはむ。」とて、いみじくよよと泣けば、われもえせきあへ 【 C 】ど、いみじさに、戯れに言ひなさむとて、「 さて鷹飼はではいかがしたまはむずる。」と言ひたれば、
やをら立ち走りて、し【 D 】たる鷹を握り放ちつ。見る人も涙せきあへず、まして、日暮らし難し。心地におぼゆるやう、
E争へば思ひにわぶるあまぐもにまづそる鷹ぞ悲しかりける
とぞ。
日暮るるほどに、文見えたり。天下のそらごとならむと思へば、「ただいま心地悪しくて、え今は。」とて、やりつ。
問1 文中に動詞の語の活用に意図的な誤用がある。それはどれか、正したものを記しなさい。★★
問2 @なほいかで心として死にもしにしがなを現代語訳しなさい。★★
問3 Aこの一人ある人の名前を漢字4字で記しなさい。★
問4 空欄のB・Cに文意が通るように、次から適当な助動詞を選び適切な形にして記しなさい。★★
まし ず き む
問5 空欄のDに文意が通るよう、ワ行下二段活用の動詞の語を適切な形にして記しなさい。★★
問6 E争へば思ひにわぶる天雲にまづそる鷹ぞ悲しかりけるで使われている掛詞を2つ抜き出しなさい。★★
問7 「蜻蛉日記」の成立した時代、作者の名、作者の姪にあたる菅原孝標女が書いた日記作品の名を順に記しなさい。★
advanced Q.1 後ろ安からむとは、ここではどういう意味か。
advanced Q.2 さて鷹飼はではいかがしたまはむずるとは、どのようなことを意味しているのか、簡潔に説明しなさい。
advanced Q.3 E争へば思ひにわぶるあまぐもにまづそる鷹ぞ悲しかりけるの「あまぐもにまづそる鷹」では掛詞を使って二重のことが述べられているが、それはどういうこととどういうことか。
つくづくと思ひつづくることは、なほ @いかで心として死にもしにしがなと思ふよりほかのこともなきを、ただ aこの一人ある人を思ふにぞ、いと悲しき。 b人となして、 c後ろ安からむ妻などにあづけてこそ死にもこころやすからむとは思ひ( d )、いかなる心地してさすらへむずらむと思ふに、なほいと死にがたし。「いかがはせむ。 Aかたちを変へて、 B世を思ひ離るやと試みむ。」と語らへば、まだ深くもあらぬなれど、いみじうさくりもよよと泣きて、「さなりたまはば、まろも法師になりてこそあら( e )。何せむにかは、世にもまじらはむ。」とて、いみじくよよと泣けば、われもえせきあへ( f )ど、いみじさに、戯れに言ひなさむとて、「 Cさて鷹飼はではいかがしたまはむずる。」と言ひたれば、やをら立ち走りて、し( g )たる鷹を握り放ちつ。見る人も涙せきあへず、まして、日暮らし難し。心地におぼゆるやう、
争へば思ひにわぶる Dあまぐもにまづそる鷹ぞ悲しかりける
とぞ。
日暮るるほどに、文見えたり。天下のそらごとならむと思へば、「ただいま心地悪しくて、 Eえ今は。」とて、やりつ。
問1 a「この一人ある人」とは蜻蛉日記の作者の子息のことである。その名前を漢字4字で記しなさい。
b「人」の意味を記しなさい。
問2 c「後ろ安からむ」の意味として適切なものを次から選びなさい。
ア うしろ姿が美しい イ 将来が安心できる
ウ 性格の良い エ 気の置けない
問3 空欄のdefに文意が通るよう次から適切な助動詞を選び、適当な形にして記しなさい。
まし ず ぬ き む
問4 空欄のgに文意が通るよう、ワ行下二段活用の動詞の語を適切な形にして記しなさい。
問5 @「いかで心として死にもしにしがな」の口語訳として適切なものを次から選びなさい。
ア どうにかして思い通りに早く死んでしまいたい。
イ どうにかして心静かに死を迎えたい。
ウ どうにかして思い通りにならない死を避けたい。
エ どうにかして同じ思いのあの人と一緒に死んでしまいたい。
問6 A「かたちを変へて」、B「世を思ひ離る」とは、どのようなことを述べているのか簡潔に説明しなさい。
C「さて鷹飼はではいかがしたまはむずる。」とは、どのようなことを意味しているのか、簡潔に説明しなさい。
D「あまぐもにまづそる鷹」では掛詞を使って二重のことが述べられているが、それはどういうこととどういうことか。
E「え今は」とはどういうことを言うものか。省略されていることを補って説明しなさい。
問7 「蜻蛉日記」の成立した時代・作者の名・作者の姪にあたる菅原孝標女が書いた日記作品の名を順に記しなさい。
蜻蛉日記「鷹を放つ」 exercise 解答用紙(プリントアウト用) へ
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