蜻蛉日記「町小路の女/うつろひたる菊」  問題

 次の文章は、兼家が通い始めた翌年作者が懐妊し、八月末に男児を出産して間もないころの記事である。これを読んで、あとの問いに答えよ。

 九月ばかりになりて、出でにたるほどに、箱のあるを、手まさぐりに開けて見れば、人のもとにや aらむとしける文あり。あさましさに、@見てけりとだに知られむと思ひて、書きつく。
 うたがはしほかに渡せるふみ見ればここやとだえにならむとす bらむ
など思ふほどに、むべなう、 c十月つごもり方に、三夜しきりて見えぬときあり。つれなうて、「しばし試みるほどに。」など、けしきあり。
 これより、夕さりつ方、「内裏にのがるまじかりけり。」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば、「町小路なるそこそこになむ、とまり給ひぬる。」とて来たり。さればよと、いみじう心憂しと思へども、言はむやうも知らであるほどに、二、三日ばかりありて、暁方に、門をたたくときあり。 Aさなめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家とおぼしき所にものしたり。
 dつとめて、なほもあらじと思ひて、
  嘆きつつひとり寝る夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る
と、例よりはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたり。返り事、「明くるまでも試みむとしつれど、とみなる召し使ひの来合ひたりつればなむ。いとことわりなりつるは。
  Bげにやげに冬の夜ならぬまきの戸も遅くあくるはわびしかりけり
Cさても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたる。しばしは、忍びたるさまに、「内裏に。」など言ひつつぞあるべきを、いとどしう心づきなく思ふことぞ、限りなきや。

問1 a・bの「らむ」の文法上の異同を記しなさい。★★

問2 c十月の異名としての読みと、dつとめての意味を記しなさい。★

問3 @見てけりとだに知られむを「見(てけり)」の目的語を補って現代語訳しなさい。★★

問4 Aさなめりについて、
   (1)品詞分解しなさい。★★
   (2)「さ」とは何を指すのか。2字で記しなさい。★★

問5 Bげにやげに冬の夜ならぬまきの戸も遅くあくるはわびしかりけりの歌の修辞を説明しなさい。★★

問6 Cさても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたるを現代語訳しなさい★★

問7 「蜻蛉日記」の成立した時代、作者の名、作者の姪にあたる菅原孝標女が書いた日記作品の名を順に記しなさい。★


advanced Q.1 例よりはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたりから、どういう気持ちが読み取れるか。
advanced Q.2 Cさても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたるの「ことなしびたる」とは、ここでは分かりやすくいうとどういうことをそう言っているのか。


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蜻蛉日記「町小路の女/うつろひたる菊」  exercise

 a九月ばかりになりて、出でにたるほどに、箱のあるを、手まさぐりに開けて見れば、人のもとにやらむとしける文あり。 bあさましさに、見てけりとだに知られむと思ひて、書きつく。
  @うたがはしほかに渡せるふみ見ればここやとだえにならむとすらむ
など思ふほどに、むべなう、十月つごもり方に、三夜しきりて見えぬときあり。 cつれなうて、「 Aしばし試みるほどに。」など、けしきあり。
 これより、夕さりつ方、「内裏にのがるまじかりけり。」とて出づるに、心得で、人をつけて見すれば、「町小路なるそこそこになむ、とまり給ひぬる。」とて来たり。 dさればよと、いみじう心憂しと思へども、言はむやうも知らであるほどに、二、三日ばかりありて、暁方に、門をたたくときあり。さなめりと思ふに、憂くて、開けさせねば、例の家とおぼしき所にものしたり。
  Bつとめて、なほもあらじと思ひて
  嘆きつつひとり eる夜のあくる間はいかに久しきものとかは知る
と、 C例よりはひきつくろひて書きて、 Dうつろひたる菊にさしたり。返り事、「明くるまでも試みむとしつれど、とみなる召し使ひの来合ひたりつれば fなむ。いとことわりなりつるは。
  Eげにやげに冬の夜ならぬまきの戸も遅くあくるはわびしかりけり
Fさても、いとあやしかりつるほどに、ことなしびたる。しばしは、忍びたるさまに、「 g内裏に。」など言ひつつぞあるべきを、いとどしう心づきなく思ふことぞ、限りなきや。

問1 a・e・gの読みをひらがなで記しなさい。aは異名での読みとします。

   b・c・dは、どういう意味か、それぞれ一〇字以内で口語訳せよ。

   fの直後に省略されていると考えられる語句を2語で記しなさい。

問2 @の歌について、次の問いに答えよ。
   (1)「うたがはし」の「はし」に「橋」を掛けて、その縁語を三つ用いている。それぞれ抜き出せ。

   (2)掛詞・縁語以外に、作者の気持ちを強く訴えるためにどういう修辞法・技法が用いられているか。該当する修辞法を一つ答えよ。

問3 Aについて、次の問いに答えよ。
   (1)これは、だれのどういう言葉か。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
      ア 兼家に対する作者の詰問    イ 作者に対する兼家の言い訳
      ウ 兼家に対する作者のいたわり  エ 作者に対する兼家の慰め

   (2)「試みるほどに」の次に、どういう言葉が省略されているか。現代語で簡潔に答えよ。

問4 B・Cは、どういう意味か。適当なものをそれぞれ次の中から選び、記号で答えよ。
   B ア しいて、本気ではないと思って
     イ 仏道修行のため、このようなことがあってはならないと思って
     ウ 一生懸命に、ますますただですまされないと思って
     エ あくる朝、このまま黙ってすますわけにはいくまいと思って
   C ア 世の中の習慣よりも丁寧に書いて  イ ふだんよりは手を入れて直して書いて
     ウ いつもよりは改まって書いて    エ 普通よりは具合の悪いところを隠して書いて

問5 Dの「うつろひたる菊」は暗に何を言うものか。

   Eの歌で使われている修辞法を一つ説明しなさい。

問6 Fについて、(1)口語訳しなさい。 (2)どういうことへの感慨なのか説明しなさい。

問7 「蜻蛉日記」の成立した時代、作者の名、さらに、作者の姪にあたり「更級日記」を書いた作者はだれか。

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