大納言行成偕、いまだ殿上人にておはしけるとき、実方の中将、いかなる憤りかありけん、殿上に参り合ひて、言ふこともなく、行成の冠を打ち落として、小庭に投げ捨ててけり。
行成少しも騒がずして、 @主殿司を召して、「冠取りて参れ。」とて、冠して、守刀よりかうがい抜き出だして、鬢かいつくろひて、居直りて、「いかなることにて候ふやらん。たちまちにかうほどの乱罰にあづかるべきこと【 】、おぼえ侍らね。 Aそのゆゑを承りて、のちのことにや侍るべからん。」と、ことうるはしく言はれけり。a.Q1実方はしらけて、逃げにけり。
折しも、 B小蔀より主上御覧じて、「行成はいみじき者なり。かく Cおとなしき心あらんと【 】思はざりしか。」とて、そのたび蔵人頭空きけるに、多くの人を越えて、なされにけり。実方をば、中将を召して、a.Q2「歌枕見て参れ。」とて、陸奥守になしてぞつかはされける。やがてかしこにて失せにけり。
実方、蔵人頭にならでやみにけるを恨みて、執とまりて、雀になりて、殿上の小台盤にゐて、台盤を食ひけるよし、人言ひけり。
一人は忍に耐へざるによりて前途を失ひ、一人は忍を信ずるによりて褒美にあへるたとへなり。
問1 2カ所の空欄【 】は同じ助詞が省略されている。それは何か。
問2 @主殿司、B小蔀の読みを現代仮名遣いで、また、Cおとなしきの意味を記しなさい。
問3 Aそのゆゑを承りてを、指示内容を明らかにして現代語訳しなさい。
advanced Q.1 a.Q1実方はしらけて、逃げにけりについて、実方がそうしたのはなぜか。
advanced Q.2 a.Q2「歌枕見て参れ。」について、
1.実質的にはどういうことを意味するものか。前後の文意に即して説明しなさい。
2.なぜこういう言い方をしたのか。
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大納言行成偕、いまだ殿上人にておはしけるとき、実方の中将、いかなる憤りかありけん、殿上に参り合ひて、言ふこともなく、 @行成の冠を打ち落として、小庭に投げ捨ててけり。
行成少しも騒がずして、 a主殿司を召して、「冠取りて参れ。」とて、冠して、守刀よりかうがい抜き出だして、鬢かいつくろひて、居直りて、「いかなることにて候ふやらん。たちまちにかうほどの乱罰にあづかるべきこと bこそ、おぼえ侍らね。そのゆゑを承りて、のちのことにや侍るべからん。」と、 Aことうるはしく言はれけり。B実方はしらけて、逃げにけり。
折しも、 c小蔀より主上御覧じて、「行成は Cいみじき者なり。かくおとなしき心あらんと dこそ思はざりしか。」とて、そのたび蔵人頭空きけるに、多くの人を越えて、なされにけり。実方をば、 D中将を召して、「 E歌枕見て参れ。」とて、陸奥守になしてぞつかはされける。 Fやがてかしこにて失せにけり。
実方、蔵人頭にならでやみにけるを恨みて、執とまりて、雀になりて、殿上の小台盤にゐて、台盤を食ひけるよし、人言ひけり。
一人は忍に耐へざるによりて前途を失ひ、一人は G忍を信ずるによりて褒美にあへるたとへなり。
問1 a・cの漢字の読みを現代仮名遣いで記しなさい。
問2 b・dの「こそ」の結びの語を抜き出し、終止形に改めて答え、その文法上の意味をそれぞれ記せ。
(例) らむ―現在推量
問3 @について、次の問いに答えよ。
(1)作者は、どのような行為であると評しているか。本文中から六字で抜き出せ。
(2)行成は、どのような行為として受け止めているか。行成の言葉の中の一語で答えよ。
問4 A・Dは、どういう意味か。適当なものをそれぞれ次の中から選び、記号で答えよ。
A ア 礼儀正しくおっしゃった。 イ 語気を荒げておっしゃった。
ウ 髪を整えておっしゃった。 エ 落ち着いておっしゃった。
C ア 実方を、中将とお呼びになって イ 実方については、中将にお預けということになって
ウ 実方を、中将に任命なさって エ 実方については、中将の職をお取り上げになって
問5 Bについて、実方がそうしたのはなぜか説明しなさい。
問6 Cについて、次の問いに答えよ。
(1)この言葉には、どういう気持ちがこめられているか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 好意 イ 同情 ウ 称賛 エ 不審
(2)また、どういう理由からそういう気持ちになったのか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 突然の事態にうろたえ何も言えなかったので。 イ 大人として分別のある言動を見せたので。
ウ 屈辱に耐えながら未熟な相手をかばったので。 エ 相手が言うままにおとなしく従ったので。
問7 Eについて、次の問いに答えよ。
(1)実質的にはどういうことを意味するものか。前後の文意に即して説明しなさい。
(2)なぜこういう言い方をしたのかを説明しなさい。
問8 Fを口語訳せよ。
Gの「忍を信ずる」行為を具体的に示している箇所を、本文中から八字以内で抜き出せ。
問9 この文章は、どういう教訓の事例として考えられるか。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
ア 人の上の多言等を誡(いまし)むべきこと。 イ 思慮を専らにすべきこと。
ウ 諸事に堪忍すべきこと。 エ 朋友を撰ぶべきこと。
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