源氏物語「住吉参詣」(澪標)1/2 現代語訳
原文
その秋、住吉に詣で給ふ。願ども果たし給ふべければ、いかめしき御歩きにて、世の中揺すりて、上達部、殿上人、我も我もとつかうまつり給ふ。
折しも、かの明石の人、年ごとの例のことにて詣づるを、去年今年はさはることありておこたりける、かしこまり取り重ねて思ひ立ちけり。舟にて詣でたり。岸にさし着くるほど、見れば、ののしりて詣で給ふ人のけはひ、渚に満ちて、いつくしき神宝を持て続けたり。楽人十列など、装束を整へ、かたちを選びたり。「誰が詣で給へるぞ。」と問ふめれば、「内大臣殿の御願果たしに詣で給ふを、知らぬ人もありけり。」とて、はかなきほどの下衆だに、心地よげにうち笑ふ。「げに、あさましう、月日もこそあれ。なかなかこの御ありさまをはるかに見るも、身のほどくちをしうおぼゆ。さすがにかけ離れ奉らぬ宿世ながら、かくくちをしききはの者だに、もの思ひなげにて、つかうまつるを色ふしに思ひたるに、何の罪深き身にて、心にかけておぼつかなう思ひ聞こえつつ、かかりける御響きをも知らで立ち出でつらむ。」など、思ひ続くるに、いと悲しうて、人知れずしほたれけり。
現代語訳
その(明石から帰京した翌年の)秋、(源氏は)住吉大社にご参詣なさる。多くの願がかなったお礼をなさるつもりなので、盛大なお出かけであって、世間は大騒ぎして、上達部や殿上人たちが、我も我もとお供申し上げなさる。
ちょうどその折も折、あの明石の人(明石君)が、毎年の恒例の行事として(住吉に)参詣するのだが、去年と今年は差し障ることがあって怠った、そのお詫びを兼ねて(参詣を)思い立ったのだ。舟で参詣した。岸に舟を着けるとき、見ると、大騒ぎして参詣なさる人の気配が、渚に満ちて、立派な奉納の品々を持参した行列が続いている。(社頭で東遊を舞う)舞人十人などは、装束を整え、容貌のすぐれた者を選んでいる。「どなたがご参詣になっているのか。」と(供の者が)尋ねた様子だが、「内大臣殿がお礼参りに参詣なさるのを、知らない人もいるとはなあ。」と言って、つまらない身分の下賤の者までが、得意気に笑う。「本当に、あきれたことに、(参詣する)月日はほかにいくらもあるのに(、よりによって同じ日に参詣してしまうなんて)。なまじこの(源氏の君の)ご威勢を遠くから見るにつけても、わが身のほどが情けなく思われるわ。さすがに(源氏の君とは)切っても切れない前世からのご縁があるものの、こんなに取るに足りない分際の者までが、何の物思いもなさそうで、お供するのを晴れがましい名誉なことに思っているのに、(自分は)どんな罪深い身だからといって、(源氏の君のことを)いつも心にかけてご心配申し上げていながらも、このような世間の大評判をも知らないで出かけて来てしまったのだろう。」などと、思い続けると、ひどく悲しくて、人知れず涙で袖が濡れるのであった。
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