源氏物語「須磨の秋/心づくしの秋風」(須磨)2/2 問題

 a前栽の花いろいろ咲き乱れ、おもしろき夕暮れに、海見やらるる廊に出で給ひて、たたずみ給ふ御さまの、ゆゆしう清らなること、所がらはましてこの世のものと見え給はず。白き綾のなよよかなる、紫苑色など b奉りて、こまやかなる御 c直衣、帯しどけなくうち乱れ給へる御さまにて、「釈迦牟尼仏弟子。」と名のりて、ゆるるかに読み給へる、また世に知らず聞こゆ。
 沖より舟どもの歌ひののしりて漕ぎ行くなども聞こゆ。ほのかに、ただ小さき鳥の浮かべると見やらるるも、心細げなるに、雁のつらねて鳴く声、 dの音にまがへるを、うちながめ給ひて、涙のこぼるるをかき払ひ給へる御手つき、黒き御数珠に映え給へるは、 eふるさとの女恋しき人々の心、みな慰みにけり。
  初雁は恋しき人のつらなれや旅の空飛ぶ声の悲しき
とのたまへば、良清、
  @かきつらね昔のことぞ思ほゆる雁はその世の友ならねども
民部大輔、
  心から常世を捨てて鳴く雁を雲のよそにも思ひけるかな
前右近将監、
  A常世出でて旅の空なるかりがねもつらにおくれぬほどぞ慰む
友惑はしては、いかに侍らまし。」と言ふ。親の常陸になりて下りしにも誘はれで、参れるなりけり。 B下には思ひくだくべかめれど、誇りかにもてなして、つれなきさまにしありく。  月のいとはなやかにさし出でたるに、今宵は十五夜なりけりとおぼし出でて、殿上の御遊び恋しく、ところどころながめ給ふらむかしと思ひやり給ふにつけても、月の顔のみまもられ給ふ。「 f二千里外故人心。」と誦じ給へる、例の涙もとどめられず。入道の宮(藤壺)の、「霧や隔つる。」とのたまはせしほど、言はむ方なく恋しく、折々のこと思ひ出で給ふに、よよと泣かれ給ふ。「夜更け侍りぬ。」と聞こゆれど、なほ入り給はず。
  見るほどぞしばし慰むめぐりあはむ月の都ははるかなれども
その夜、上(朱雀帝)のいとなつかしう昔物語などし給ひし御さまの、院(桐壺帝)に似 C奉り給へりしも、恋しく思ひ出で D聞こえ給ひて、「恩賜の御衣は今ここにあり。」と誦じつつ入り給ひぬ。御衣はまことに身放たず、傍らに置き給へり。
  憂しとのみひとへにものは思ほえで左右にもぬるる袖かな   【須磨】

【参照】
「八月十五夜、禁中独直対月憶元九」(『白氏文章』)
「去年今夜侍清涼秋詩篇独断賜恩賜御衣今在此捧持毎日拝余香」(菅原道真『菅家後集』)

問1 a前栽とb奉りの読みと意味をそれぞれ順に記しなさい。読みはすべて現代仮名遣いのひらがなで、また、bの読みは漢字部のみを記すこと。★

問2 c直衣とdの読み(現代仮名遣いのひらがな)を記しなさい。★

問3 eふるさとはここではどこのことか、1字で記しなさい。また、f二千里外故人心の「故人」とはここでは何を指すものか、本文から該当する箇所を抜き出して記しなさい。★★

問4 @かきつらね昔のことぞ思ほゆる雁はその世の友ならねどもで使われている修辞を説明しなさい。★★★

問5 A常世出でて旅の空なるかりがねもつらにおくれぬほどぞ慰むで詠まれている心情が行動として語られている10〜15字の箇所を本文から抜き出しなさい。★★

問6 B下には思ひくだくべかめれどを現代語訳しなさい。★★

問7 C奉り給へとD聞こえ給ひはそれぞれ誰に敬意を表しているのか、次から選び記号で答えなさい。★★
    イ 光源氏と入道の宮   ロ 上と光源氏   ハ 入道の宮と上
    ニ 光源氏と院      ホ 院と上     ヘ 入道の宮と院

問8 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★


advanced Q.1 初雁は恋しき人のつらなれや旅の空飛ぶ声の悲しきで使われている修辞を説明しなさい。

advanced Q.2 心から常世を捨てて鳴く雁を雲のよそにも思ひけるかなの歌は「民部大輔」自身はどうだというのか、簡明に説明しなさい。

advanced Q.3 見るほどぞしばし慰むめぐりあはむ月の都ははるかなれどもで使われている修辞を説明しなさい。

advanced Q.4 憂しとのみひとへにものは思ほえで左右にもぬるる袖かなはどういう心情を詠んだものか、どういう訳でそういう心情を抱くのかが分かるように簡明に説明しなさい。


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源氏物語「須磨の秋/心づくしの秋風」(須磨)2/2 exercise

問 次の文章は、須磨に退居した源氏の様子を描いたものである。これを読んで、あとの問いに答えよ。

 (ア)前栽の花いろいろ咲き乱れ、おもしろき夕暮れに、海見やらるる廊に出で給ひて、たたずみ給ふ御さまの、ゆゆしう清らなること、所がらはましてこの世のものと見え給はず。白き綾のなよよかなる、紫苑色など@奉りて、こまやかなる御(イ)直衣、帯しどけなくうち乱れ給へる御さまにて、「釈迦牟尼仏弟子。」と名のりて、ゆるるかに読み給へる、Aまた世に知らず聞こゆ。沖より舟どもの歌ひののしりて漕ぎ行くなども聞こゆ。ほのかに、ただ小さき鳥の浮かべると見やらるるも、心細げなるに、雁のつらねて鳴く声、楫の音にまがへるを、うちながめ給ひて、涙のこぼるるをかき払ひ給へる御手つきB、黒き御数珠に映え給へるは、ふるさとの女恋しき人々の心、みな慰みにけり。
 C初雁は恋しき人のつらなれや旅の空飛ぶ声の悲しき
とのたまへば、良清、
 Dかきつらね昔のことぞ思ほゆる雁はその世の友ならねども
民部大輔、
  心から常世を捨てて鳴く雁をE雲のよそにも思ひけるかな
前右近将監、
 「常世出でて旅の空なるFかりがねもつらにおくれぬほどぞ慰む 友惑はしては、いかに侍らまし。」と言ふ。親の常陸になりて下りしにも誘はれで、参れるなりけり。G下には思ひくだくべかめれど、誇りかにもてなして、つれなきさまにしありく。月のいとはなやかにさし出でたるに、今宵は十五夜なりけりとおぼし出でて、殿上の御遊び恋しく、ところどころながめ給ふらむかしと思ひやり給ふにつけても、月の顔のみまもられ給ふ。H「二千里外故人心。」と誦じ給へる、例の涙もとどめられず。

問一 (ア)・(イ)の漢字の読みを、それぞれ平仮名・現代仮名遣いで記せ。

問二 @「奉り」は、どういう意味を表す敬語か。適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
    ア 「染む」の謙譲語  イ 「やる」の謙譲語  ウ 「着る」の尊敬語  エ 「縫ふ」の尊敬語

問三 Aに「また世に知らず聞こゆ。」とあるが、「また」によってどういう事柄を表しているか。簡潔に説明せよ。

問四 Bに「御手つき」とあるが、源氏の「」はどのような手か。簡潔に説明せよ。

問五 Dの歌に用いられている修辞技巧として適当なものを次の中から選び、記号で答えよ。
    ア 枕詞  イ 序詞  ウ 掛詞  エ 縁語

問六 Eに「雲のよそにも思ひけるかな」とあるが、「雲のよそに思ふ」とはどのように思うことか。簡潔に説明せよ。

問七 C・Fにおける「」の意味するものは、どのように違うか。その違いがわかるように、その意味するものをそれぞれ簡潔に説明せよ。

問八 G「下には思ひくだくべかめれど」とは、どういう意味か。口語訳せよ。

問九 Hに「二千里外故人心。」とあるが、この詩句を口ずさむ源氏にとって、「故人」とはだれを思い浮かべていると思うか。本文中から抜き出せ。

問十 この文章において、主人公光源氏の心情を描くのに重要な役目をしているものは、何か。適当なものを次の中から二つ選び、それぞれ記号で答えよ。
    ア 前栽の花  イ 廊  ウ 舟ども  エ 雁  オ 楫の音  カ 月


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