光源氏は17歳。後に明らかにされるが、そのころ源氏は六条に住まっていた亡き東宮の御息所(「六条御息所」と呼ばれる)のもとに通っていた。ここでは、その途中にある、病を得ている乳母の家を見舞っている場面。隣家の女主人らしい人から扇が送られていた。惟光(これみつ)は乳母の子で源氏の供人として仕えている。
a修法など、またまたはじむべきことなどおきてのたまはせて、出でたまふとて、惟光に b紙燭召して、ありつる扇御覧ずれば、もて馴らしたる移り香いとしみ深うなつかしくて、をかしうすさび書きたり。
心あてに @それかとぞ見る白露の光そヘたる夕顔の花
そこはかとなく書きまぎらはしたるもあてはかにゆゑづきたれば、いと思ひのほかにをかしうおぼえたまふ。
惟光に、「この西なる家は何人の住むぞ、問ひ聞きたりや」とのたまへば、例のうるさき御心とは思へどもさは申さで、「この五六日ここにはべれど、 A病者のことを思うたまへあつかひはべるほどに、隣のことはえ聞きはべらず」など、はしたなやかに聞こゆれば、「 B憎しとこそ思ひたれな。されど、 Cこの扇の尋ぬべきゆゑありて見ゆるを。なほこのわたりの心知れらん者を召して問へ」とのたまへば、入りて、この宿守なる男を呼びて問ひ聞く。
「揚名介なる人の家になんはべりける。男は田舎にまかりて、妻なん若く事好みて、はらからなど宮仕人にて来通ふと申す。くはしきことは、下人のえ知りはべらぬにやあらむ」と聞こゆ。さらば、その宮仕人ななり、したり顔にもの馴れて言へるかなと、 Dめざましかるべき際にやあらんと思せど、さして聞こえかかれる心の憎からず、過ぐしがたきぞ、例の、この方には重からぬ御心なめるかし。御 c畳紙にいたうあらぬさまに書きかへたまひて、
Fよりてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔
ありつる御随身して遣はす。
まだ見ぬ御ありさまなりけれど、 Gいとしるく思ひあてられたまへる御側目を見過ぐさでさしおどろかしけるを、答えへたまはでほど経ければなまはしたなきに、 Hかくわざとめかとければ、あまえて、「いかに聞こえむ」など言ひしろふべかめれど、めざましと思ひて随身は参りぬ。御d前駆の松明ほのかにて、いと忍びて出でたまふ。 e半蔀は下ろしてけり。隙々より見ゆる灯の光、螢よりけにほのかにあはれなり。【夕顔】
問1 a修法・b紙燭・c畳紙・d前駆の読みを現代仮名遣いで記しなさい。★
問2 @それの指すものを漢字二字で記しなさい。★★
問3 A病者のことを思うたまへあつかひはべるほどにについて、敬語法の観点から解説しなさい。★★★
問4 B憎しとこそ思ひたれなで、惟光が「憎し」と思うのはなぜか。★★★
問5 Cこの扇の尋ぬべきゆゑの内容を、八十字以内で説明しなさい。★★★
問6 Dめざましかるべき際にやあらん・Fよりてこそそれかとも見め・Gいとしるく思ひあてられたまへる御側目を見過ぐさでさしおどろかしけるを・Hかくわざとめかとければを現代語訳しなさい。★★★
問7 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★
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