源氏物語「御簾の透影 3/3」(若菜上)   現代語訳

 大殿御覧じおこせて、 「上達部の座、いと軽々しや。こなたにこそ」 とて、対の南面に入りたまへれば、みなそなたに参りたまひぬ。宮もゐ直りたまひて、御物語したまふ。次々の殿上人は、簀子に円座召して、わざとなく、椿餅、梨、柑子やうのものども、さまざまに箱の蓋どもにとり混ぜつつあるを、若き人びとそぼれ取り食ふ。さるべき乾物ばかりして、御土器参る。
 源氏はこちらをご覧になっていて、「上達部の座が近すぎる。こちらに席を変えよう」と言って、対の南面に入ると、皆そちらにお移りになった。蛍兵部卿の宮も席を変えて、話をなさる。それ以下の上達部たちは、簀子に円座を敷いて、気楽に、椿餅(つばいもち)、梨、柑子など、それぞれ箱の蓋などにとり混ぜて盛ってあるのを、若い人々は戯れ名が食うのだった。しかるべき適当な干し魚ばかりで御酒を召し上がる。

 衛門督は、いといたく思ひしめりて、ややもすれば、花の木に目をつけて眺めやる。大将は、心知りに、あやしかりつる御簾の透影思ひ出づることやあらむと思ひたまふ。いと端近なりつるありさまを、かつは軽々しと思ふらむかし。いでや。こなたの御ありさまの、さはあるまじかめるものをと思ふに、かかればこそ、世のおぼえのほどよりは、うちうちの御心ざしぬるきやうにはありけれと思ひ合はせて、なほ、内外の用意多からず、いはけなきは、らうたきやうなれど、うしろめたきやうなりやと、思ひ落とさる。

 衛門の督の柏木はひどく思い込んで、ときどき、桜の木をぼんやり眺めている。夕霧は、わけを知っているので、「ふとしたことから垣間見た姿を思い出しているのだろう」と思っていた。端近くになり過ぎているのは軽率だと思っているのだろう。いいや、紫の上ならそんなことは決してないだろうと思うと、こういうことだからこそ、世間の声望が高い割には、源氏の心が向かわず愛情は薄くなるのだろうと思い合わせて、やはり、他人に対しても自分にも思慮が足りず、幼いのは、かわいいと思われるだろうが、やはり不安だ」と思いいたるのだった。

 宰相の君は、よろづの罪をもをさをさたどられず、おぼえぬものの隙より、ほのかにもそれと見たてまつりつるにも、わが昔よりの心ざしのしるしあるべきにやと、契りうれしき心地して、飽かずのみおぼゆ。
 宰相(も兼ねている柏木)は、(夕霧と違って)女三の宮の欠点も少しも気づかず、思いがけない物陰からかすかにそれと拝見したのにも、昔からのわたしの思いのしるしがきっとあるだろうかと前世の宿縁もうれしく思い、思慕の思いに胸いっぱいなのだった。

advanced Q. A上達部の座、いと軽々しや。こなたにこそという言葉の裏に読み取れる心理があるとすれば、それはどういうものか。「御簾の透影1/3 2/3」も含めて考えられる所見を記しなさい。

advanced Q. Bいと端近なりつるありさまとは、誰のどういうことを言っているのか。「御簾の透影1/3 2/3」も含めて考えられることを記しなさい。



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