光源氏41歳。病重く、出家の志が強い兄朱雀院のたっての希望により、女三宮を正室として迎え入れた。そのことで深く傷ついた紫の上との間に立って、悩んでいる。かねて女三宮に思いを寄せていた柏木(「衛門督」。かつての頭中将、現在は太政大臣の子息)は、光源氏と女三宮との間柄が疎遠になっていることを知り、ますます思いを募らせるのであった。次は、源氏の六条院におおぜい集まって蹴鞠の遊びがあり、柏木が夕霧(「大将」)とともに、階段の中ほどで休んでいる時の出来事が語られている。後の問に答えなさい。
a御几帳どもしどけなく引きやりつつ、人気近く世づきてぞ見ゆるに、唐猫のいと小さくをかしげなるを、すこし大きなる猫追ひ続きて、にはかに b御簾のつまより走り出づるに、人びとおびえ騒ぎて、そよそよと身じろきさまよふけはひども、衣の音なひ、耳かしかましき心地す。猫は、まだよく人にもなつかぬ cにや、綱いと長く付きたりけるを、物にひきかけまつはれ dにけるを、逃げむとひこしろふほどに、御簾の側いとあらはに引き開けられたるを、とみにひき直す人もなし。この柱のもとにありつる人びとも、心あわたたしげ eにて、もの懼ぢしたるけはひどもなり。
几帳の際すこし入りたるほどに、 f袿姿にて立ちたまへる人あり。 g階より西の二の間の東の側なれば、まぎれどころもなくあらはに見入れらる。紅梅にやあらむ、濃き薄き、すぎすぎに、あまた重なりたるけぢめ、はなやかに、草子のつまのやうに見えて、桜の織物の細長なるべし。御髪のすそまでけざやかに見ゆるは、糸をよりかけたるやうになびきて、裾のふさやかにそがれたる、いとうつくしげにて、七、八寸ばかりぞ余りたまへる。 h御衣の裾がちに、いと細くささやかにて、姿つき、髪のかかりたまへる側目、 @言ひ知らずあてにらうたげなり。 i夕影なれば、さやかならず、奥暗き心地するも、いと飽かず口惜し。鞠に身を投ぐる若君達の、花の散るを惜しみもあへぬけしきどもを見るとて、人びと、あらはをふともえ見つけぬなるべし。猫のいたく鳴けば、見返りたまへる面もち、もてなしなど、いとおいらかにて、若くうつくしの人やと、ふと見えたり。
大将、いと jかたはらいたけれど、はひ寄らむもなかなかいと軽々しければ、ただ心を得させて、 Aうちしはぶきたまへるにぞ、やをらひき入りたまふ。 Aさるは、わが心地にも、いと飽かぬ心地したまへど、猫の綱ゆるしつれば、心にもあらずうち嘆かる。まして、さばかり心をしめたる衛門督は、胸ふとふたがりて、誰ればかりにかはあらむ、ここらの中にしるき袿姿よりも、 B人に紛るべくもあらざりつる御けはひなど、心にかかりておぼゆ。さらぬ顔にもてなしたれど、「まさに目とどめじや」と、大将は Bいとほしく思さる。 Cわりなき心地の慰めに、猫を招き寄せてかき抱きたれば、いと香ばしくて、らうたげにうち鳴くも、なつかしく思ひよそへらるるぞ、好き好きしきや。
【若菜上】
問1 a御几帳・b御簾・f袿・g階・h御衣のよみを現代仮名遣いで記しなさい。★
問2 i夕影・jかたはらいたけれ★の意味を記しなさい。活用語は言い切りの形で答えること。
問3 c・d・eの「に」は次のどれにあたるか。★
イ 形容動詞の活用語尾 ロ 接続助詞 ハ 完了の助動詞 ニ 格助詞 ホ 断定の助動詞
問4 @言ひ知らずあてにらうたげなり・B人に紛るべくもあらざりつる御けはひを現代語訳しなさい。★★
問5 Aうちしはぶきたまへるにぞについて、誰がどういう目的でそうしたのかがわかるように説明しなさい。★★★
問6 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。★★
advanced Q. Aさるは、わが心地にも、いと飽かぬ心地したまへどという心理を、文意に即して分かりやすく説明しなさい。
advanced Q. Bいとほしく思さるとはどいうことか。誰をどういうわけでどう思ったのかがわかるように説明しなさい。
advanced Q. Cわりなき心地誰のどういう気持ちか。分かりやすく説明しなさい。
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