源氏物語「絵物語のすさび」(蛍)   問題

 源氏に引き取られ、貴族の娘として豪華な六条院に日々を過ごす身となった玉鬘。蛍の巻はその玉鬘を中心とした物語となります。
 以下の文章は、物語に夢中になっている玉鬘に、源氏が物語論を展開する場面です。ここは、源氏の口を借りて、作者の紫式部が日ごろ考えている物語觀を述べたものとして有名な一節です。後の〔一〕〔二〕の問に答えなさい。


〔一〕

 長雨例の年よりもいたくして、晴るる方なく aつれづれなれば、御方々絵物語などの bすさびにて明かし暮らしたまふ。明石の御方はさやうのことをも cよしありてしなしたまひて、姫君の御方に奉りたまふ。西の対には、ましてめづらしく dおぼえたまふことの筋なれば、明け暮れ書き読み営みおはす。 @つきなからぬ若人あまたあり、さまざまにめづらかなる人の上などを、まことにやいつはりにや、言ひ集めたる中にも、わがありさまのやうなるはなかりけりと見たまふ。住吉の姫君のさし当たりけむをりは eさるものにて、今の世の fおぼえもなほ心ことなめるに、主計頭がほとほとしかりけむなどぞ、かの監が gゆゆしさを思しなずらヘたまふ。

 殿も、こなたかなたに Aかかる物どもの散りつつ、御目に離れねば、「あな hむつかし。女こそものうるさがらず、人に欺かれむと生まれたるものなれ。 Bここらの中にまことはいと少なからむを、かつ知る知る、かかる iすずろごとに心を移し、はかられたまひて、暑かはしき j五月雨の、髪の乱るるも知らで書きたまふよ」とて、笑ひたまふものから、また、「かかる世の古事ならでは、げに何をか紛るることなきつれづれを慰めまし。さてもこのいつはりどもの中に、げにさもあらむとあはれを見せ、つきづきしくつづけたる、はた、 kはかなしごとと知りながら、いたづらに心動き、らうたげなる姫君のもの思へる見るにかた心つくかし。またいとあるまじきことかなと見る見る、おどろおどろしくとりなしけるが目おどろきて、静かにまた聞くたびぞ、憎けれどふとをかしきふしあらはなるなどもあるべし。このごろ幼き人の、女房などに時々読まするを立ち聞けば、ものよく言ふ者の世にあるべきかな。そらごとをよくし馴れたる口つきよりぞ言ひ出だすらむとおぼゆれどさしもあらじや」とのたまへば、「げにいつはり馴れたる人や、さまざまにさも酌みはべらむ。ただいとまことのこととこそ C思うたまへられけれ」とて、硯を押しやりたまへば、「骨なくも聞こえおとしてけるかな。神代より世にあることを記しおきけるななり。日本紀などはただ lかたそばぞかし。これらにこそ道々しくくはしきことはあらめ」とて笑ひたまふ。

問1 a〜lの語の意味を記しなさい。ただし、jは読みを記しなさい。★

問2 @つきなからぬ若人を解釈しなさい。★★

問3 問題文中で、撥音便になっていて撥音が表記されていない助動詞の語があるが、それはどれか。発音便化する前の本来の形にして記しなさい。★★

問4 Aかかる物、Bここらは何を指すか。Aは三字以内、Bは七字以内でわかりやすく記しなさい。★★

問5 C思うたまへられけれを品詞分解して、文法の観点から説明しなさい。★★

問6 問題文中で光源氏に対する皮肉となっている語句を、七字で抜き出して記しなさい。★★


〔二〕

 「その人の上とて、ありのままに言ひ出づることこそなけれ、よきもあしきも、 a世に経る人のありさまの、見るにも飽かず b聞くにもあまることを、後の世にも言ひ伝へさせまほしきふしぶしを、心に籠めがたくて言ひおきはじめたるなり。よきさまに言ふとては、よきことのかぎり選り出でて、人に従はむとては、またあしきさまのめづらしきことをとり集めたる、みな cかたがたにつけたるこの世の外のことならずかし。 @ひとの朝廷のさへ、作りやは変はる、同じ大和の国のことなれば、昔今のに変はるベし、深きこと浅きことのけぢめこそあらめ、ひたぶるにそらごとと言ひはてむも、 d事の心違ひてなむありける。仏のいとうるはしき心にて説きおきたまへる御法も、方便といふことありて、悟りなさ者は、ここかしこ違ふ疑ひをおきつべくなん、方等経の中に e多かれど、言ひもてゆけば、一つ旨にありて、菩提と煩悩との隔たりなむ、この、人のよきあしきばかりのことは変りける。よく言ヘば、すべて何ごとも空しからずなりぬや」と、物語をいと fわざとのことにのたまひなしつ。

問1a世に経る聞くにもあまるかたがた事の心を解釈しなさい。★★

問2 e多かれどとは何が多いのか。★★

問3  @ひとの朝廷のさへ、作りやは変はるは、またA「ひとの朝廷のざえ、作りやは変はる、同じ大和の国のことなれば、昔今のに変はるベし」とも解釈できる。@とA双方を口語訳しなさい。★★★

問4 この文章は物語論について述べられているが、内容の上では二つの時効が述べてある。それを「物語の…論と…論について」という言い方で十八字以内で記しなさい。★★★

問5 fわざとのことを六十字以内で分かりやすく説明しなさい。★★★

問6 「源氏物語」の成立した時代・作者の名・作者が仕えた中宮とその父親の名を順に記しなさい。時代は前・中・後期まで答えること。★


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