「のちの千金の事」(宇治拾遺物語) 解答/解説
今となっては昔のことになるが、チャイナ(中国)に荘子という人がいた。家がとても貧しかったので、今日の食物がなくなった。隣にかんあとうという人がいた。その人のところへ(行って)、今日食べるための粟を請った。
あとうが言うには、「もう五日たっておいでなさい。(五日後に)千両の金が手に入るはずだ。それを差し上げよう。どうして、(あなたのような)高貴な方に、今日召し上がるだけの粟を差し上げられようか、いや、そんなことはできません。(そんなことをしては)どう考えても私の恥だろう。」と言うので、荘子が言うには、「昨日、道を通っていましたところ、後ろから(私を)呼び続ける声がする。振り返って見ると、人はいない。ただ車の轍にたまっている少しの水に、鮒が一匹ばたばたしている。どのようなわけのある鮒であろうかと思って、近寄って見ると、少しばかりの水に、たいへん大きな鮒がいる。『どうした鮒なのか。』と尋ねると、鮒が言うには、『私は川の神の使いとして、江湖へ行くのだ。それが跳び損なって、この溝に落ち込んだのだ。のどが乾き、死にそうだ。私を助けてくれと思って、呼んだのだ。』と言う。(私は)答えて言った、『私は、もう二、三日して、江湖もとという所に、遊びに行くつもりだ。そこへ連れて行って放してあげよう。』と言うと、魚が言うには、『(私の命は)全くそのときまで待てないだろう。ただ今日器一杯だけの水で、私ののどをうるおしてくれ。』と言ったので、そのようにして(私は鮒を)助けた。鮒が言ったことを、自分のこととして思い知った。全く私の今日の命は、ものを食べなかったら、生きていることはできない。すべて終わったあとの千金というのは、全くむだである。」と言った。
そのことから、「のちの千金」という言葉が、有名になった。
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