ある人、弓 a射る事を習ふに、もろ矢をたばさみて的に向ふ。師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つ事なかれ。後の矢をたのみて、始めの矢に等閑の心あり。毎度ただ b得失なく、この一矢に定む cべしと思へ」といふ。わづかに二つの矢、師の前にて、一つをおろかにせんと思はんや。懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。この戒め、万事にわたる dべし。
道を学する人、夕には朝あらんことを思ひ、朝には夕あらんことを思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。いはんや一刹那のうちにおいて、懈怠の心ある事を知らんや。なんぞ、ただ今の一念において、直ちにする事のはなはだかたき。 (第九十二段)
問1 a「射る」の活用の行と種類、活用形を答えなさい。
問2 b「得失」の意味を記しなさい。
問3 c、dの「べし」の文法上の意味が同じものとなるものを次の例文から選びなさい。
イ 長くとも四十に足らぬほどにて死なむこそ、めやすかるべけれ。
ロ 人、死を憎まば、生を愛すべし。
ハ 家の作りやうは夏をむねとすべし。
ニ (形見の品を)ゆめゆめ疎略を存ずまじう候ふ。御疑ひあるべからず。
ホ 羽なければ空をも飛ぶべからず。
へ 宮仕へに出だし立てなば死ぬべしと申す
問4 @「おろかにせむと思はむや」を口語訳しなさい。
問5 A「ただちにすることのはなはだ難き」とは、誰が何をどうするというのか説明しなさい。
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