先の村上天皇の御時に、雪がたいそう降ったのを、白い陶器にお盛りになって、それに梅の花をさして、月がとても明るい夜に、「これについて歌をよめ。どのように詠むのがよいか。」と、蔵人の兵衛という女房にご下命になったところ、(彼女は)「雪・月・花の時」と(『白氏文集』の一句で)お答え申し上げた、この返事を、(帝は)とてもおほめになった。「(こんなとき)歌などをよむのはありきたりなものだ。このように、その場その時にぴったり合った言葉は、容易に言えないものだ。」と仰せになった。
同じ兵衛の蔵人をお供にして、殿上の間にだれも伺候していなかったとき、(帝が)たたずんでおられると、火鉢から煙が立ち上ったので、「あれは何の煙か見てまいれ。」と仰せになったので、(彼女は)見ておそばに帰ってきて、
わたつ海の…【海の沖に漕がれている(航行している)ものを見たら、海士(あま)が釣りをして帰るところでした――赤くおこっている炭火の燠(おき)に焦げているものを見たら、それは蛙(かえる)でした。】
とお答え申し上げたのは本当におもしろい。(実は)蛙が飛び込んで焼けているのであったよ。 (第百七十五段)
advanced Q. A雪・月・花の時で、このような言い方をしたのはなぜか、簡明に説明しなさい。
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