昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。Aみそかなる所なれば、門よりもえ入らで、童べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり。人しげくもあらねど、たび重なりければ、あるじ聞きつけて、その通ひ路に、夜ごとに人を据ゑて守らせければ、行けどもえあはで帰りけり。さてよめる。
人知れぬわが通ひ路の関守は宵々ごとに Bうちも寝ななむ
とよめりければ、
Cいといたう心やみけり。あるじ許してけり。
二条の后に忍びて参りけるを、世の聞こえありければ、せうとたちの守らせ給ひけるとぞ。
問1 本文中で使われているワ行下二段活用の動詞の語はどれか、基本形にしたものを記しなさい。
問2 Aみそかなる所なれば、門よりもえ入らでを現代語訳しなさい。
問3 Bうちも寝ななむについて、@文法的に説明しなさい。 A現代語訳しなさい。
問4 Cいといたう心やみけりとあるが、女がそうなった理由を説明しなさい。
advanced Q. 「人知れぬ」の歌について、
1 「人知れぬ」とあるが、この言葉はどの叙述をふまえて表現したものか。適当なものを次の中から二つ選び、記号で答えよ。
ア いと忍びて イ みそかなる ウ え入らで
エ 踏みあけたる オ あるじ聞きつけて カ えあはで帰りけり
2 「寝ななむ」の「なむ」と同用法となるものを次から選び記号で答えなさい。
ア そやつはまことには我がもとに入りて、やすらかに物取りてはいなむや。
イ 同じ枝に鳴きつつをりつほととぎす声はかわらぬものと知らなむ
ウ 名をばさかきの造となむいひける。
エ いづくなりともまかりなむ
オ 盛りにならば、かたちも限りなくよく、髪もいみじく長くなりなむ。
カ 日ごろ山寺にまかり歩き侍りてなむ。
キ 寄する波打ちも寄せなむわが恋ふる人忘れ貝下りて拾はむ
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