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@さすがに命は憂きにも絶えず、ながらふめれど、のちの世も、思ふにかなはずぞあらむかしとぞ、うしろめたきに、頼むこと一つぞありける。A天喜三年十月十三日の夜の夢に、ゐたる所の屋のつまの庭に、阿弥陀仏立ち給へり。Bさだかには見え給はず、霧ひとへ隔たれるやうに、透きて見え給ふを、せめて絶え間に見たてまつれば、蓮花の座の、土をあがりたる高さ三四尺、仏の御丈六尺ばかりにて、金色に光り輝やき給ひて、御手片つかたをばひろげたるように、いま片つかたには、印をつくり給ひたるを、こと人の目には見つけたてまつらず、我一人見たてまつるに、さすがにいみじく、けおそろしければ、簾のもとちかく寄りても、え見たてまつらねば、仏、「さは、このたびは帰りて、のちに迎へに来む」とのたまふ声、わが耳一つに聞えて、人はえ聞きつけずと見るに、うちおどろきたれば、十四日也。Cこの夢許ぞ、のちの頼みとしける。
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現代語訳
@それでもやはり命というものはつらい出来事によっても絶えることなく、生きながらえているようだけども、(現世でも思うに任せないのだから)来世も思いどおりにならない(極楽往生ができない)だろうと不安であるが、頼りに思うことが一つだけあったのだった。A天喜三年(1055)十月十三日の夜の夢に、座っている所の部屋の軒先の庭に、阿弥陀仏が立っていらっしゃった。Bはっきりとはお見えにならず、霧が一重へだたっているように、透いてお見えになるのを、強いて霧の絶え間に拝見申し上げると、蓮華の台座が地面から三・四尺(1尺は約30cm)の高さにあり、御仏の丈は六尺ほどで、金色に光り輝きなさって、御手を片方はひろげたようになさり、もう片方には印を結んでいらっしゃるのを、ほかの人の目ではお見つけもうしあげず、私一人が拝見するので、そうはいうもののやはりひどく不吉で、なんとなく恐ろしいような感じがするので、簾の側近くにも進んで拝見することもできないでいると、御仏が、「それでは、このたびはこのまま帰って、のちにまた迎えに来よう」とおっしゃる声が、私一人の耳にだけに聞こえて、他の人には聞くことができない、と夢に見る時に、はっと目覚めると、十四日である。Cこの夢だけを、来世、極楽往生できるという頼みとしたのだった。
Dをひどもなど、ひと所にて、朝夕見るに、かうあはれにかなしきことののちは、所ゞゝゝになりなどして、誰も見ゆることかたうあるに、いと暗い夜、六郎にあたるをひの来たるに、めづらしうおぼえて、
月も出でで闇にくれたるをばすてに何とて今宵たづねきつらむ
とぞいはれにける。
↓
現代語訳
D甥たちなどとは、(夫の生前は)同じ家で朝夕顔を見合わせていたが、こんなにしみじみ悲しいことがあった後は、別々の住まいになったりなどして、誰にも会うことがめったにないが、とても暗い夜、兄弟で六番目にあたる甥が来たので、珍しく思われて、
(月の出ている名所の姨捨山ならともかく)月も出てないこんな闇の中を、(夫を亡くして悲嘆にくれているこの)おば(年寄りの住まい)をどういうわけで今宵訪ねてくださったのですか(よくまあ、訪ねてくださいましたね)
と言わずにいられなかった。
更級日記「後の頼み(さすがに命は憂きにも絶えず)」 解答/解説
更級日記「後の頼み(さすがに命は憂きにも絶えず)」 解答用紙(プリントアウト用 )
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