史記「荊軻」(於是太子豫求天下之利匕首…乃以藥嚢提荊軻也。)  問題

 ※ 問題本文はすべて横書きかつ白文です。問題に取り組む前に、予め教科書などで訓点付きの本文を読んでおいてもいいことにします。

 燕の国の太子に丹(たん)という人があった。このままでは燕が秦に滅ぼされてしまうと心配し、秦王を暗殺することを計画した。刺客(暗殺者)として選ばれたのは、衛の人で、燕に移住していた荊軻(けいか)という人物であった。太子丹(たん)は身分の差を捨てて荊軻(けいか)を厚く待遇し、大事を打ち明けたが、荊軻(けいか)はその丹(たん)への義侠心から、その依頼を快く引き受けた。
 秦王暗殺の依頼を受けた荊軻は、用心深い秦王に謁見(えっけん)するための策を考えた。その策とは、一つが、燕でも最も肥沃(ひよく)な土地である督亢(とくこう)を差し出すこと。もう一つが、もとは秦の将軍で、秦王が提案した軍の少数精鋭化に対し諫(いまし)めたために、その怒りに触れ一族を処刑され、燕へ逃亡してきていた樊於期(はんおき)の首を差し出すこと。これをすれば秦王も喜んで荊軻に会うだろうと丹に提案するが、丹は領地割譲はともかく、自分たちを頼って逃げてきた人間を殺すことはできないと断った。丹の苦悩をおもんばかった荊軻は直接、樊於期に会い「褒美(ほうび)のかかっているあなたの首を手土産(てみやげ)に、私が秦王にうまく近づき殺すことができたならば、きっと(そなたの)無念も恥もそそぐことができるでしょう」と頼んだところ、樊於期は復讐のためにこれを承知して、自刎(じふん)し己の首を荊軻に与えた。丹は暗殺に使うための鋭い匕首(あいくち。音ではヒシュと訓む。)を天下に求め、ついに(秦王を暗殺するため、)趙人・徐夫人の匕首を百金を出して手に入れた。本文ここから始まる。


 A 於是太子豫求天下之 ※利匕首,得趙人 ※徐夫人匕首,取之百金。使工以藥 ※?之,以試人,※血濡縷,人無不 a死者。乃裝為遣荊卿。燕國有勇士秦舞陽,年十三,殺人,人不敢 ※忤視。乃 @令秦舞陽為副。荊軻有所待,欲 A與倶。其人居遠 B未來,而為 ※治行。 ※頃之,未發,太子遲之,疑其 ※改悔,乃復請曰、「日已盡矣,荊卿 C豈有意哉。丹請得先遣秦舞陽。」荊軻怒,叱太子曰、「 D何太子之遣。往而不返者, ※豎子也。且提一匕首、入不測之彊秦,僕 b所以留者,待吾客與倶。今太子遲之。 E ※辭決矣。」遂發。

※利匕首…「利」は鋭い、「匕首」はあいくち。「あいくち」とは、つばがなく柄口と鞘口が合うようにつくられた短刀。
※徐夫人…人名。「徐」は姓、「夫人」は名。
※?(ヘンが火、ツクリが卒)…にらグ。刀身に焼きを入れる、しみこませる。
※血濡縷…血が糸筋のようににじむ
※忤視…にらむ、不快な目つきで見る。
※治行…旅行の用意をする。
※頃之…しばらたつ
※改悔…心変わり
※豎子…小僧。青二才。
※辭決…別れを告げる

問1 a、b所以の読みを送り仮名を含めてすべてひらがなで記しなさい。★★

問2 A與倶をすべてひらがなで訓読しなさい。★★

問3 @令秦舞陽為副、B未來、C豈有意哉、D何太子之遣、E ※辭決矣を書き下しなさい。★★★

B 太子及賓客知 @其事者,皆 ※白衣冠以送之。至易水之 a。既祖, ※取道。高漸離撃筑,荊軻和而歌,為變微聲。士皆垂涙涕泣。又前而為歌曰、

風蕭蕭兮易水寒
壯士一去兮不復還

復為羽聲慨。士皆 b瞋目,發盡上指冠。於是荊軻就車而去,※終已不顧。

※白衣冠…喪服
※取道…出発する
※終已…それきり、もう。

問1 aの読みをひらがなで記しなさい(送り仮名不要)。★

問2 b瞋目の意味を記しなさい。★

問3 @其事とはどういうことか、20〜30字で説明しなさい。★★★

C 遂至秦,持千金之 ※資幣物,厚遺秦王寵臣 ※中庶子蒙嘉。嘉 a先言於秦王曰、「燕王誠 ※振怖大王之威,不敢舉兵以 ※逆軍吏。願舉國為 ※?臣, ※比諸侯之列, ※給貢職如郡縣,而得奉守先王之宗廟。恐懼不敢自陳,謹斬樊於期之頭,及獻燕 ※督亢之地圖,函封,燕王拜送于庭, @使使以聞大王。 A唯大王命之。」秦王聞之,大喜,乃 ※朝服,設九賓,見燕使者咸陽宮。荊軻奉樊於期頭函,而秦舞陽奉地圖 ※?,以次進。至 ※陛,秦舞陽色變振恐。群臣怪之。荊軻顧笑舞陽, b謝曰、「 ※北蕃蠻夷之鄙人, B未嘗見天子。故 ※振慴。願大王少 ※假借之, ※使得畢使於前。」

※資幣物…贈り物
※中庶子…官名。諸侯の子弟の教育をつかさどる。 ※振怖…ふるえおののく ※逆軍吏…「軍吏」は武官のこと。ここでは秦王に属する将軍や将校を言うもの。秦王に逆らうということ
を遠慮し、その「軍吏」に逆らうという言い方をしている。 ※?臣…相手の国に付き従い、臣として礼を執ること。
※比…ここでは、諸侯としての待遇を受けること。

※給貢職…貢物を献上し、賦役の勤めを果たす。
※督亢…地名で穀倉地帯。
※朝服…礼服
※九賓…九人の接待役。これをそろえるのは、お客をもてなす最高の儀式を示す。
※?(ヘンが木、ツクリが甲)…箱
※陛…階段。宮殿の階段
※北蕃蠻夷之鄙人…北方野蛮の田舎者。
※振慴…震え恐れる。
※假借…大目に見る。見逃す。許す。
※使得畢使於前…御前で使者の役目を果たす。

問1 a、bをすべてひらがなで訓読しなさい。★

問2 @使使以聞大王、A唯大王命之、B未嘗見天子を書き下しなさい。★★★

D 秦王謂軻曰、「 a舞陽所持地圖。」軻既取圖奏之,秦王發圖。圖窮而匕首見。因左手把秦王之袖,而右手持匕首 ※?之。未至身,秦王驚,自引而 b,袖絶。拔劍,劍長,操其 ※室。時 ※惶急,劍堅。故 @不可立拔。荊軻逐秦王。秦王環柱而走。群臣皆愕,卒起不意,盡 ※失其度。而秦法,群臣侍殿上者、不得持 ※尺寸之兵。諸 ※郎中執兵皆陳殿下, A非有詔召、不得上。方急時,不及召下兵。以故荊軻乃逐秦王。而卒惶急,無以撃軻,而以手共搏之。是時侍醫夏無且以其所奉 ※藥嚢 ※提荊軻也。秦王方環柱走。卒惶急,不知所為。左右乃曰、「 B王負劍。」負劍,遂拔以撃荊軻,斷其左股。荊軻 ※廢。乃引其匕首以 ※?秦王。 C不中,中桐柱。秦王復撃軻,軻被八 c。軻 ※自知事不就,倚柱而笑, ※箕踞以罵曰、「 D事所以不成者,以欲生 ※劫之必得 ※約契以報太子也。」於是 d左右既前殺軻。秦王不 ※怡者良久。已而論功,賞群臣及當坐者各有差,而賜夏無且黄金二百 ※鎰,曰、「無且愛我,乃以藥嚢提荊軻也。」(「史記」刺客列伝第二十六)

※?(手ヘンにツクリは甚)…刃物などで刺す。
※室…刀の鞘。
※惶急…あわてる。うろたえる。
※失其度…度肝を抜かれて、どうしてよいか分からない。
※尺寸之兵…一尺か一寸の武器ということから、短い刃物。
※郎中…官命。宮中のけいびをつかさどる。
※藥嚢…薬の入った袋。
※提…投げつける。
※負劍…帯剣が長すぎて抜けないので、一度背負った形にして、肩越しに柄(つか)を握って抜くこと。
※廢…力が抜ける。
※?秦王…?は手ヘンに適。秦王に投げつけるの意。 ※自知事不就…自分自身で、けいかくが失敗したことを悟る。
※箕踞…両足を投げ出して座る
※劫…オビヤカスと読む。強迫する。 ※約契…約束。ここでは、秦が燕を侵略しないという協定。
※怡…にこにことうれしそうなさま。
※鎰…金貨の目方の名。一鎰は、二十両にあたるなど諸説がある。

問1 aの用法は次のどれか。《 使役  比喩  命令  抑揚  反語 》★

問2 b、c、d左右の意味を記しなさい。★

問3 @不可立拔、A非有詔召、不得上、B王負劍、C不中、D事所以不成者,以欲生 ※劫之,必得 ※約契以報太子也を書き下しなさい。★★★

問4 「史記」の作者名と成立した時代の名を記しなさい。★



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