長恨歌(「白氏文集」)1/3  白文/書き下し文/現代語訳

1漢皇重色思傾国
 漢皇(かんくおう)色を重んじて 傾国を思ふ
  漢の皇帝は女を大いに好まれて国を傾けるほどの美女を得たいものだと思われた

2御宇多年求不得
 御宇(ぎよう)多年 求むれども得ず
  天下統治の間の長年にわたり求めていたが得られなかった

3楊家有女初長成
 楊家(やうか)に女(むすめ)有り 初めて長成す
  そのころ、楊家にようやく一人前になる娘がいた

4養在深閨人未識
 養はれて深閨(しんけい)に在り 人未だ識(し)らず
  深窓の令嬢として育てられ、誰にも知られていない

5天生麗質難自棄
 天生の麗質は自(おのづか)ら棄(す)て難く
  しかし生まれつきの美しさはそのまますておかれるわけがなく

6一朝選在君王側
 一朝選ばれて 君王の側(かたはら)に在り
  ある日選ばれて、めでたく天子様のお側に仕えることになる

7迴眸一笑百媚生
 眸(ひとみ)を迴(めぐ)らして一笑すれば 百媚(ひやくび)生じ 
  (謁見の日)彼女がひとみをめぐらせてにっこりほほえむと、この上ないなまめかしさがあふれ

8六宮粉黛無顔色
 六宮(りくきゆう)の粉黛(ふんたい) 顔色無し
  奥御殿の、おしろいとまゆずみの化粧を凝らした多くの美しい宮女達も、精彩が無くなって美しく見えないありさまであった

9春寒賜浴華清池
 春寒くして浴を賜(たま)ふ 華清の池
  (彼女は)春まだ寒い頃、華清池の温泉での入浴を許された

10温泉水滑洗凝脂
 温泉水滑(なめ)らかにして 凝脂を洗ふ
  温泉の水は滑らかで、引き締まった脂のような白い肌にそそぎかかった

11侍児扶起嬌無力
 侍児(じじ)扶(たす)け起こすに 嬌(けう)として力無し
  侍女がそばから助け起こすと、なまめかしくなよなよとして立ち上がる力もないほどだ

12始是新承恩沢時
 始めて是れ新たに 恩沢を承(う)くるの時
  こうして初めて皇帝の寵愛を受ける時が来たのである

13雲鬢花顔金歩揺
  雲鬢(うんびん)花顔 金歩揺(きんほえう)
   雲のように豊かで柔らかな髪、花が開いたように美しい顔、そして歩くと揺れる黄金や珠玉で作られたかんざし(挿した楊貴妃は)髪飾り

14芙蓉帳暖度春宵
  芙蓉(ふよう)の帳(とばり)暖かにして 春宵(しんせう)を度(わた)る
   はすの花を縫い込めた寝台の帳の中は暖かく、それに包まれて春の宵を二人は過ごした

15春宵苦短日高起
  春宵短きに苦しみ 日高くして起く
   春の宵は短いことをかこちつつ、日が高くなってからお起きなさる

16従此君王不早朝
  此れより君王 早朝せず
   このときから天子は早朝のまつりごとをなさらなくなった

17承歓侍宴無閑暇
  歓びを承(う)け宴に侍して 閑暇(かんか)無く
   天子の気に入るようにして宴にはべり、四六時中暇がない

18春従春遊夜専夜
  春は春の遊びに従ひ 夜は夜を専らにす
   春には春の遊びにお供し、夜は夜を独り占めする

19後宮佳麗三千人
 後宮の佳麗 三千人
  後宮の美女は三千人

20三千寵愛在一身
 三千の寵愛 一身に在り
  その三千人分の寵愛が一人の体にとどまった

21金屋粧成嬌侍夜
 金屋(きんをく)粧(よそほ)ひ成りて 嬌として夜に侍し
  黄金の御殿では完璧に化粧して、あでやかに夜宴にはべり、なまめかしく夜をともにする

22玉楼宴罷酔和春
 玉楼宴罷(や)んで 酔(ゑ)ひて春に和す
  玉楼での宴が終わり、陶然と酒に酔う姿が春の雰囲気に調和していた

23姉妹弟兄皆列土
 姉妹弟兄 皆土を列(つら)ぬ
  妃の姉妹兄弟はみな諸侯にとりたてられ

24可憐光彩生門戸
 憐(あは)れむべし 光彩の門戸に生ずるを
  ああ、うらやましくも、その門からまばゆい光がさしている

25遂令天下父母心
 遂(つひ)に天下の父母の心をして
  ついには天下の親たちの心も

26不重生男重生女
  男を生むを重んぜず 女を生むを重んぜしむ
   男児より女児の誕生を喜ぶようになった

27驪宮高処入青雲
  驪宮(りきゆう)高き処(ところ) 青雲に入り
   驪山の華清宮は、雲に隠れるほど高く

28仙楽風飄処処聞
 仙楽風に飄(ひるが)へりて 処処に聞こゆ
  この世のものとも思えぬ美しい音楽が、風にひるがえりあちらでこちらでも、あらゆるところから聞こえてくる

29緩歌慢舞凝糸竹
 緩歌(くわんか)慢舞 糸竹を凝らし
  のどやかな調べ、緩やかな舞姿 管弦はゆるやかに音を弾いて演奏されて

30尽日君王看不足
 尽日君王 看(み)れども足らず
  一日中、天子は(妃を)見飽きることはない

31漁陽?鼓動地来
 漁陽の?鼓(へいこ) 地を動かして来たり
  突然、漁陽の進軍太鼓が地を揺るがして迫り

32驚破霓裳羽衣曲
 驚破す霓裳(げいしやう) 羽衣(うい)の曲
  霓裳羽衣の曲を打ち砕いた

33九重城闕煙塵生
 九重(きうちよう)の城闕(じやうけつ) 煙塵(えんぢん)生じ
  宮殿の門には戦乱の烽火と粉塵が立ち上り

34千乗万騎西南行
 千乗万騎 西南に行く
  天子は多くの軍と騎兵の大軍を弾連れて西南(蜀の成都)へと落ち延びて行かれることになった

35翠華揺揺行復止
 翠華(すいくわ)揺揺(やうやう)として 行きて復(ま)た止まる
  カワセミの羽で飾った皇帝の御旗は、ゆらゆらと進んでは止まる

36西出都門百余里
  西のかた都門を出づること百余里
   ついに都の門から西百里のところに着いた

37六軍不発無奈何
 六軍(りくぐん)発せず 奈何(いかん)ともする無く
  ところが天子の軍隊はここからは進まず、どうにもできない

38宛転蛾眉馬前死
 宛転(ゑんてん)たる蛾眉(がび) 馬前に死す
  美しい眉の美女は、馬の前で死んだ(殺されてしまった)

39花鈿委地無人収
 花鈿(くわでん)地に委(す)てられて 人の収むる無く
  螺鈿細工のかんざしは地面に落ちたままで、拾い上げる人はいない

40翠翹金雀玉?頭
 翠翹(すいげう)金雀(きんじやく) 玉?頭(ぎよくそうとう)
  カワセミの羽の髪飾りも、孔雀の形をした黄金のかんざしも、同じく地に落ちたまま

41君王掩面救不得
 君王面を掩(おほ)ひて 救ひ得ず
  天子は顔を覆うばかりで、(妃を)救うことができなかった

42迴看血涙相和流
 迴(かえ)り看て血涙 相(あひ)和して流る
  振りむいた顔には、血を交えた涙が流れるばかりであった



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